一月・9 シュガーなお年頃
玲華転校の噂は、当然下級生にもその日のうちに伝わった。
と言うか、三学年合わせて7クラス、全部で250人にも満たないこの学校では、噂の伝達速度はISDN並みの速度で拡散された。えっ遅い?
そういや深夜ラジオでまっさんが喋っていたが、青森県で時の首相についてのデマを流し、東京へ伝播するまでどれぐらいの時間がかかるのかを実験した所、『噂話のスピードは時速約40キロメートルである』って結果が出たとかなんとか。
だもの、全幅200メートルも無い校舎じゃ、あっという間だったろう。
「同学年の女子には泣き出してしまった子もいましたよ、せんぱい」
「えぇ……」
今は放課後。
部活も終わり着替えて部室を出たところで、俺は部室棟の廊下で待っていたらしい涼木さんから話を聞いていた。
どうも玲華の存在は、下級生には俺の婚約者みたいな立場に固定・拡散されてしまったらしい。
涼木さんは率先して否定しまくってくれたそうだが、多感な年頃の女子はマッシュルームの表皮なみに傷つきやすいのだ。とは言え、俺に何ができるのって話しなんだけど。
「取り敢えず、別に交際してるって訳じゃないので、そんなイメージになるのは困るんだがなぁ」
「こまる、んですか?」
「そりゃそうだよ。来年の受験のこともあるし、今は恋愛なんかにかまけてる場合じゃ無いんだから」
「なるほど、そういう事でしたら」
「うん?」
「ことあるごとに、せんぱいご自身がそれを口にすればよいのでは?」
「ふーむ」
確かにそうだ。玲華と俺は現在、”ちょっとばかり仲の良すぎる友達同士”ではあるが、こういったゴタゴタは受験が終わるまで封印しておきたい。
それに何より、来月に控えたバレンタインのこともあるしな。誰かの何かを刺激して、これ以上の不確定要素を増やしたくは無い。いいアイデアだと思った。
「ありがとう涼木さん、ちょっと試してみるよ」
「おつかれさまですせんぱい。所で……」
「うん、何だい?」
涼木さんが淡々と、しかしちょっぴり熱の籠もった瞳で見上げてきた。
「どうやらせんぱいのお役に立てたようなので、ちょっぴりごほうびが欲しいかもです」
「ご褒美?」
「はい、何でもいいので」
「制服の第二ボタンをご所望かな?」
「それは来年の卒業式まで不要です」
「もらう気ではいるんだね」
「それはもう」
なんかこう、小柄な涼木さんを見下ろしているせいか、低学年の従妹を相手にしているみたいな雰囲気になってきたな。
なので目線を合わせるため片膝をつき、姫君に服従する騎士のような姿勢を取った。
「何かご希望はありますかなお嬢さん?」
「では頭をなでてください」
「いいですとも」
次の瞬間、涼木さんがギュッと抱きついてきた。首はしっかりホールドされ、お互いの頬がピッタリとくっついている。これ本当に従妹と同じじゃん。涼木さんにしては予想外の動きだったけど、無茶な要求じゃなくてちょっと安心した。
俺は涼木さんの頭をエラーが出そうなほど撫でてあげた。
「これでちょっぴりリード取れました」
……怖いので「誰に?」とは訊けなかったヘタレは俺ですハイ。




