一月・7 After The Ordeal
翌朝。
少し遅め、と言うかほぼ昼に起きた俺は、階下の様子を見て唖然とした。
「……なんで台所が満員に?」
二階の自室から降り、階段を下ってドアを開けるとすぐの部屋が台所なんだが、そこには女性陣全員が集まり、あーでもないこーでもないと何やら作業をしているのだった。
「あっ、トーちゃん久しぶりー!」
「いや昨日いただろ」
「初川君、もう大丈夫なの?」
玲華と先生が声を掛けてくる。
「お陰様で。まだ少しダルいですけど、食欲は戻ったっぽいです」
「ちょうど良かったですせんぱい!」
ほわっつ?
「いまみんなで、せんぱいのお昼ご飯の献立で勝負中なんです」
涼木さんが屈託のない笑顔で告げてくれた内容が、脳内でうまく処理できない。え、勝負? 何ソレ食えるの? つか検討中じゃなく?
「こればっかりはアタシのひとり勝ちね!」
「ボクだって負けてないよ!」
「初川ー、付け合わせはこないだのハンバーグでいいー?」
いや、病み上がりの胃にはもう少し軽めのおかずをデスネ。そもそもハンバーグが付け合わせって、主菜はどんだけ重たいものが出るんだよ……。
「まあまあトーちゃん、取り敢えずテーブルについてよ」
「その前にお手洗いに行かせてくれ」
先に胃薬飲んでおこうかな……。
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「ではこれより、『第一回 トーちゃんのための健康回復料理大会』を始めます!」
「「わー!」」
玲華の宣誓により、なにかが始まってしまった。えー、何を食べさせられるんだろ。不安だ。
まあここにいる殆どは、料理の腕前をある程度知っているから心配は無いが。
「とは言え病み上がりの胃袋に、そんなに重たいものは無理だろうということで、一人一品だけという制限をつけさせていただきました!」
「そりゃありがたい」
総勢6名ものシェフから、コッテコテのを出されたらどうしようかと思ったわ。
「で、トーちゃんには口にした料理に、それぞれ点数をつけていただきます! そこに1から5までの点数が書かれた札があるので」
「まてまてまてちょーっと待ってびーくわいえっと」
「なにー?」
「食べた直後に点数付けを?」
「そうだけど」
「それって最初に出した料理が全ての基準になるから、後から出された物ほど不利になるだろ」
「あー、そうかー」
ご納得いただけて何よりだ。と言うかな。
「それにこれって、また青春ポイントがどうとか言うヤツか?」
「ぴったしカン・カンー!」
松元が素っ頓狂な答え方してる! 助けて久米さん!
「アチキのいない間に、そんな面白いことやってたなんて絶対に許さないー!」
で、玲華はおこである。あのな、ここじゃ絶対に言わないし言えないけど、お前 他の子たちよりは何倍もリードはしてるんだから、そういう所で変に絡むなよ。
いや、それより何より。
「その点数付けってのは、絶対にやんなきゃダメなのか?」
「トウゼンよ!」
「誰が初川の胃袋を掴むのかっていうのは、今後を考えるとひっじょーに大事な話につながるし」
青野と山口もノリノリである。そして先生も腕組みをしたままウンウンと頷いている。
助けを求めるべく涼木さんをチラ見したが。
「お骨はひろってあげますせんぱい」
と、こっそり耳打ちしてきた。
回復料理で死ぬって、オレはアンデッド的な何かだったのか……。
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「じゃあ一品目。アタシはこれ!」
おお、カボチャの煮付け。しかも肉餡かけだ。これ絶対に美味しいやつ。
「いただきます。──うん、柔らかく煮付けてあって食べやすいし、甘くて美味しいな」
ちなみに点数は、全て食べ終わってから全員分を一気に付けるよう変更させてもらった。
いやその、一品食べる度に圧がすごいことになりそうで……。
「次はボクだね、はい」
これは……、タコさんウィンナーか。見た目で勝負をかけたか。
そしてよくよく匂いを確かめてみると、ごま油が使われている。
「うん、焼き加減が絶妙だな。美味しいよ」
食欲増進にいいんだよな、ごま油。それにうすくゴマ塩がかかっている。運動会とか遠足の時に食べたくなるな。
「次はアチキだね、奮ってどうぞ!」
花椒たっぷりの麻婆豆腐が小鉢に入って出てきた。単純に辛いものだが、胃を積極的に動かすと言う意味では悪くない。変にカレーとか出されると胃もたれしそうだし。
「熱い! 辛い! でも美味いわ。ビールが欲しくな」
「ビール……?」
あ、度会先生の眉が片方だけ上がった。
「麻婆豆腐にはビールが欲しくなるって、よく親父が」
「ふうん」
あ、これ信じて貰えてない表情ですね、ハイすいません。
そしてここまでの分、作った女子達は全員”ぐっ”と握りこぶしを固めている。最初に「勝負」と聞いていたので単純に優劣を決めるのかと危惧したが、どうやら青春ポイントは加点制らしく、みんな公平に付与されたという喜びがあるっぽい。
「私は言ったとおりハンバーグで」
麻婆のお陰で胃が活性化したせいか、すんなりと入ってしまった。まぁサイズもミニハンバーグだったし。
「しかしハンバーグにオーロラソースとは……、やるな松元」
「えへ」
「ではわたしからはこれですせんぱい」
「焼き鳥だ!? あ、でもこれも美味いな」
ネギまだ。しかも塩とタレ両方揃えてある。これに一味唐辛子を……。あ、これダメだ、日本酒が欲しくなってきた。
「最後は私ね、はいどうぞ」
そしてなんと度会先生からは、だし巻き玉子である。それも甘いヤツじゃなく、しらすの入ったバージョンだ。付け合わせの大根おろしにちょっと醤油をたらして……、うむ、美味しいし何より胃に優しい。ありがたい。
流石にご飯はそれほど入らなかったが、食後のお茶まで出された俺はもう満腹満足。
後は薬を飲んでもう一度寝たい所なんだけど、点数ねぇ。
これ、素直に白状しちゃってもいいのかな?
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「えー、では結果発表です」
ごくり。誰かがつばを飲む音がした。
「栄えある第一位、5点獲得。涼木さん」
「えっ、えっ」
戸惑う涼木さん。先輩達を追い越してのトップだぞ、もっと喜んで良いからね。
「第二位は玲華の麻婆豆腐、4点獲得。本当は病み上がりに刺激物ってどうよって思ったけど、結果として胃が活発になったからまぁヨシ」
「よっしゃあやったー!」
「で、同率第三位が青野、山口、松元、度会先生、全て3点獲得。いやでもみんな、本当に美味しかったです、ありがとう」
「い、一応 勝敗の理由って聞いてもいいかなー?」
青野がおずおずと聞いてきた。
───いやね、何を隠そう、病み上がりの俺は味覚も弱まっていた。なので塩味チョイ強め、かつネギの風味が程よい焼き鳥に軍配が上がったのだ。自分で辛さ調節できる点もポイント高い。
「なるほどねー」
「ボクそこまで気が回らなかったよ……」
「アチキもー」
「私もだよ、もっと相手のことを考えて作らなきゃだね」
「先生も反省するわ……」
そう言えば生前(?)は、塩辛いものばかり食べていて高血圧になったよなーとか、要らんことを思い出してしまった。
健康大事、超大事。
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「みんな、ありがとでした。助かりました」
家の庭先に駐まっていた先生のカローラ。その中へ向けて俺は謝辞を述べた。
「はい、じゃあお大事にね」
「また新学期にね!」
「今年はれいちゃんが転校してくるのかー、演奏楽しみだね」
「学校のこと色々と教えてねー」
「私も陸上頑張らなきゃ!」
「せんぱい、優勝ありがとうございました、お大事にどうぞ」
そうして発進したクルマを見送ると、俺と玲華は家に戻った。
「さてトーちゃん、もうお薬飲んで寝ちゃいなよ」
「そうさせて貰うわ。玲華もありがとうな」
「んーん、また何かあったら助けるからね。いつぞやのお礼も意味でも」
ピンポンパンポーン♪
正月早々とんでもない騒ぎになったが、これも過去には無かった出来事だ。正直言うとちょっと疲れたが、でもこうして色々と引っ張ってくれる存在というのは本当に有り難い。
これで来月のバレンタインを迎えるのかと思ったら、少しだけ喉を冷たい棒が通っていく感じがした。
うん。
もうどうにでもな~れ。




