一月・6 パジャマ・デート
あれから何時間眠っただろうか?
気がつけば窓の外は真っ暗で、階下からはお正月番組の音声が……なんで聞こえるんだ? え、まだ誰かいるの?
時計を見れば20時過ぎ。流石にマズイと思うんだが。
上に綿入り半纏を引っかけてから、ようやく立ち上がれるようになった体をなんとか動かし、ロボットみたいなギクシャクさで階下へ降りる。
居間に入るとそこには────。
「あ、もう動けるようになった?」
「せんぱいだいじょうぶですか?」
青野と涼木さんがコタツに入りながらTVを見ていた。
「……なんでいるんだ?」
「そりゃあね、正月早々ともっ……だちが孤独死とかしてたらヤじゃない?」
俺は独居老人か何かか? そしてなんで”友達”って所で詰まるんだ。
「あの後、先生が皆の家を車で回ってくれて、着替えの準備をしてきたのよ」
「なんて?」
「今夜は先生の家でお泊まり会をするって話に落ち着いたんだ」
「落ち着けるなよ」
「アリバイ工作ならバッチリですせんぱい!」
「何やってんだ先生ー!?」
「呼んだ?」
ガラッ。
居間のドアを開け、そこに現れたのは、バスタオル一枚だけの姿の度会先生だった。
「うわちょ!?」
「えっ、初川そこにいるの?」
「いるよ!」
「キャー!」
先生の後ろから、今度は松元と山口の悲鳴が上がった。どうやら三人でお風呂に入っていたらしい。
「とっ、取り敢えずオレ今からトイレに行くんで、ちゃっちゃと服を着といて下さい!」
心なしか後ろ髪を引かれつつ、俺は約半日以上ぶりに小用を足したのだった。
うん、やはり病み上がりなせいか、俺の息子氏はすかぴーしたままだった。こういう時は助かるぜ……。
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「で?」
たっぷり十分以上もトイレに籠もっていた俺だったが、タイミングを見計らって居間に戻り、部屋にいる全員を見回してこう言った。
「どうしても看病に残りたいって子たちばっかりで……」
「で?」
「流石にそれはマズイってことで、先生がひと肌脱いでくれただけなんだよ……」
「で?」
「初川がこわい……」
「当たり前だろ。感染性の病気に罹患してる生徒の家に、着替えまで持ってお泊まり会? 普通は止めるべき立場ですよね先生」
「うっ」
「でっ、でもさ」
先生が怯んだ所へ、松元が援護射撃を仕掛けてきた。
「実際、初川って明後日ぐらいまでひとりぼっちなんでしょ?」
「まあそうだな」
「寂しくない?」
「や、大変だとは思うけど、寂しくはないぞ」
「そ、そう……」
気持ちは嬉しいんだよ、気持ちだけなら。でもな。
「涼木さん、オレが一番困る事って分かるかい?」
「……せんぱいのことですから、たぶんご自分のせいでみんなが病気になってしまうのが、一番お嫌なんじゃないかと」
「大正解」
全員が沈黙した。当たり前だろ、ここは病院じゃ無い。ましてや専門職でもない素人がうろついてて良い環境じゃないんだ。
「でもねぇ、もうみんなでこうやって集まっちゃったし」
「今から帰宅ってのもおかしな話だしね」
「先生の立場もなくなっちゃうよね」
事後承諾ってのはあまり好ましくはないんだけどなー。
「はぁ、分かったよ」
「え、いいの?」
「先生の顔を潰すのは、オレとしても気が引けるしな」
「じゃ、じゃあ」
「看病たのむわ」
パーン! 全員でハイタッチするんじゃないよまったく。
「ただし、オレの部屋に入る時は必ずマスク着用と、出た後は手洗いとうがいを徹底してくれ」
「わかったわ」
「それと、体調に違和感を覚えたら即座に申し出て欲しい。できればそのまま帰宅してくれ。それが最低条件だ」
「うっ」
「返事はハイかイエスかヤーのどれかだ」
「「はい」」
ならばよろしい。一抹の不安はあったが、心遣いは本当にありがたい。
簡単な食事を摂った後に薬を服用すると、来客用の布団の場所を松元に伝え、俺は改めて自室で横になった。




