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六月・2 雨に唄えば ~Singin' in the Rain~

「そんなものはない」



 ────────完!



「「ええー!?」」

「いやうそうそ、今からちゃんと教えるって」

「「ほっ」」


 ゴメン、これ一度言ってみたかっただけなんだわ。


「でも実際、オレが心がけている事なんて大した物じゃ無いが?」

「それだけでも知りたいです」

「じゃあものすごーく一般的(ふつう)な事を言うぞ」


 なんかメモ帳とシャーペンを取り出す男子もいるが、そんなにか?

 オレはコホンと一つ咳払いをすると、話を始めた。


「順に聞くが、小学校の時って、お前らの身近にいた『モテる男子』ってどんなだった?」

「ええと、走るのが速いヤツでした」

「だよな、シンプルに運動能力が高いヤツは、まぁ子供のウチならモテるわな」

「そうですね」

「じゃあ続きな。小学生と違って、ある程度身体(からだ)の成長が同じぐらいになった中学なら、一体何で差が付くと思う?」

「えーと、やっぱり勉強ができるヤツ、ですか?」

「そうだな」

「勉強かー」


 そうだよ。顔ばかり良くたって、中身がアッパラパーじゃアカンじゃろ?


「じゃ、じゃあ高校生になったら?」


 お、いい質問だな。


「高校はアタマの出来が大体同じレベルの人間が集まるだろ」

「そうですね」

「じゃあ簡単だ。『話が面白いヤツがモテる』わ」

「それはどういう風に鍛えるんですか?」

「映画を見まくるとか、読書をいっぱいするとか、とにかく学校の勉強以外の知識をたくさん増やしとけ」

「「おおー」」


 いや知らんけど。

 だってオレの通っていた進学校では、「恋愛に(うつつ)を抜かしているヤツは、大学を諦めたマヌケ」って風潮だったし。

 ……だからイヤだったんだよ。地元で就職する時のネームバリューしか無いんだもの、オレの母校。


「とにかく、『会話していて話が面白い、楽しい』って思わせるのが重要な。そうすれば『また次もこの人と話をしてみたい』って思って貰えるし、会話する機会が増えれば、相手が何を求めているか、どんな考え方の子なのかを掴むきっかけにもなるしな」

「話をたくさんするってことですか」

「その通り。そしてその時は自分ばかり喋ろうとせず、相手の話をちゃんと最後まで聞いてあげること。自分だって気持ちよく喋ってる最中に、『オレがオレが!』って話の腰を折られたら、気分悪いだろ?」

「なるほど……」

「そしてこれは、お前らだって頑張れば、今からでも実践可能だろ?」

「あっ、確かに!」

「俺、頑張って読書します!」

「映画かー、何がいいかなぁ?」


 やいのやいの。おうおう悩め悩め男子(バカ)ども。

 今しか会えない女子だっているんだからな、後悔無きよう頑張ってくれ。


━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━


 男子達から解放された俺は、一人校舎の玄関に佇んでいた。

 そして色とりどりの傘が通り過ぎる様子を、ガラス越しにぼーっと眺めている。


 ────ふと、息子との会話の続きが思い出された。


「カノジョが途切れない秘訣って、なんかあるのか?」

「え、そんなの親父が全部教えてくれたんじゃん」

「……オレなんか言ったっけかー?」

「言ってはいないよ、言ってはね」


 息子のあの言葉。

 実は長年の謎だったんだが、ひょっとしたらこういうことだったのかも知れないな。


 同時に、去年のクリスマスの騒ぎも思い起こされた。

 なんか色々と評価されていた気がするが、結局は『相手をちゃんと見てあげろ』って話でしかないんだよ。


 ……よし、何だかちょっとだけ気分が前向きになったぞ。

 流石にジーン・ケリーのマネこそしなかったが、俺は足取りも軽く、土砂降りの中に一歩足を踏み入れた。

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