六月・1 Keeping The Faith
「初川先輩、お話があるんですが、聞いてもらっていいですか?」
梅雨時のぐず付いた校舎は、壁から何からしっとりしていて、ちょっと不快だ。
そんな中、軽音同好会の活動も終わり、下駄箱へ移動する途中で、オレは男子生徒たちに声をかけられた。学年章を見ると一年生である。
ちょっと切迫していると言うか、オドオドしている風に見えるその男子の後ろには、これまた同学年の生徒が数人、オレと玲華とを見つめていた。
「うーんと、時間的にはどれぐらいかかりそう?」
「えっ、えーと、十分ぐらいかなと思います……」
「ふむ」
オレは横で待機している玲華に振り返り、
「そういうことだから、先に帰っててくれていいぞ」
と告げた。どうやら玲華も、男子達のただならぬ気配を感じた様子で。
「うん、分かったー」
「悪いな」
「ううん、じゃあねー」
玲華の赤い傘がピロティから消えた辺りで、オレは男子達に向き直った。
気のせいか、男子全員がホッとした表情なのはなんでだ? まぁいいや。
「そんじゃ、どっか空いてる教室でも探そうか」
「「はい!」」
さーて、このパターンは生前(?)含めても初めてだなぁ。
少々の緊張感を伴ったまま、オレ達男子ご一行は歩き出した。
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「「女子にモテる秘訣を教えて下さいっ!」」
校舎の端にある空き教室。
職員室からもそこそこ遠いその場所で、
「 」
顔を真っ赤にした一年坊主どもが、一斉に頭を下げてきた。
思いも寄らないその『相談』を聞いた瞬間、オレは完全にフリーズした。最近はなんだ、上級生を石化する呪いでも流行ってんの?
とは言え、これはこの世全ての男子に共通する悩みであることは事実。オレだって、かつては何度も通った道である。
盛大に踏み外した気がするけどな!
「え、えーと?」
「初川先輩って、女子にものすごい人気じゃないですか!」
「まぁ、うん、そうみたいだねぇ」
「なんでそんなにモテるんですか?」
「オレタチだって、女子にモテたいんです!」
知らんがな。
(オオトモ様、こういうのってどうしたらいいんでしょうね?)
(む? どうもこうも、お主が普段やっとる事を、全て伝えれば良いのではないか?)
(自覚無いんですよね、実際)
(己の行動に無自覚な者ほどコワイものは無いのー)
(茶化さないで下さいよ、何かヒントぐらいお願いしますよ)
(ふーむ、ではお主の息子の件を思い出すと良いと思うぞ)
(息子、ですか?)
(なんぞ言うておったじゃろ?)
はて、何を言ってたっけな、息子氏。
(よく思い出してみい。ではの)
オオトモ様、ご帰還。謎は謎を呼び次回へ────。
「先輩?」
────続かなかった。うむ、これは逃げられぬ。
「お、おう。取り敢えずお前らの気持ちは、痛いほど伝わった」
「じゃあ!」
「その前に、オレってお前らからどんな風に見えてるんだ?」
「ええと」
いつぞや、夢の中とは言えミンチになったオレである。ちょっと恐いというか、何かしら誤解があったら解いておきたいと言うか。
「やはり身長ですか」
「楽器ができる所ですよね」
「メガネがカッコイイです」
「気づかいがハンパないですよね」
「多分モテようと思ってはいないんだろうと」
「男は顔だけじゃないんだって」
最後のお前、事実陳列罪に処すぞ。
「じゃあそれをマネすればいいんじゃ?」
「ええー、お願いします先輩! そこをなんとか!」
「先輩って小学校の頃からモテてたじゃないですか!」
「そうなのか?」
それは知らなかったな……、ん? 小学校??
ふっと、今は遠い記憶となった息子の自慢話が蘇った。
『おれ、小五の時からカノジョが途切れたことないんだよねー』
ああ、オオトモ様が言ってたのってあれの件か。ふむふむ。
ちょっと語るがオレの息子氏、顔のデキは普通。カッコイイ系では無くかわいい系。一重まぶたにちょっと上を向いた鼻。
やや痩せぎすで、身長はオレとほぼ同じぐらいまで育ったが、お世辞にも「モテるビジュアル」では無かった様に思う。(親目線)
所がある日、「仲の良くなった女子と、何とか秘密にやり取りがしたい」と相談を受けた。
聞けばお相手のその女子は非常にもの静かな子で、人目があると恥ずかしがってしまい、校内ではなかなか会話ができないのだとか。
なのでオレはその日の内に、息子氏を駅前の書店兼文具店に連れて行き、『鍵付きの日記帳』を買い与えてやった。で、後日、
『ありがと親父! お陰でお互いの愛を確かめあえたよ!』
と、惚気られまくった挙げ句、
『親父ってなんでこんなにおれに良くしてくれるの? 将来なんか恩返しとかした方がいい?』
と、真顔で言われたっけな。そうだそうだ、そんな事もあったよな。
んでその後に、「カノジョが途切れたことが無い」発言の時にこう訊ねたんだった。
「なんか秘訣でもあるのか?」と。
オレはちょっぴり微笑ましい気分になり、目の前にいる愛すべき男子共に向き直った。
「いいか、良く聞けお前たち」




