七月・1 One for the Vine
この間、後輩男子達に聞かせた話。
実はあれには続きがあってさ。
Q:大学生になったらどんなヤツがモテるんだ?
A:免許が取れる年齢って事もあり、遊び方の上手いヤツがモテるのさ
Q:じゃあ社会人は?
A:金持ち!
────という、イギリス人が好みそうな、ブラックジョーク的なオチがつく。
初川徹、中三。来年はいよいよ高校受験だ。
そして将来を考えなくてはならない年齢でもある。
生前(?)は親父殿の偏見もあり、行きたかった高校への進学は阻止されてしまったが、今はシンプルに、色んな視野を持とうかと考えていたりする。
部活も夏休み明けには引退するし、そうなるともう受験まで一直線である。
なんでこんな話をしているかって?
今のオレが学校で、三者面談の真っ最中だからだ。
しかも、何故か校長が同席していて、オレだけ四者面談のVIP待遇。
オレは横で冷や汗をかきまくっている親父殿を見て、いい気味だと思った。
根回し大事、超大事。
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事の発端は先週の、例の後輩男子達から相談を受けた件だ。
あの時のオレの『恋愛スキル』────なんて全然言い切れない内容を、その後一部の男子が滔々と友人に話していた所、たまたまそこを通りかかった校長が耳にしたそうなのだ。
つか、あんなこっぱずかしい話を、得意げに語るなよ……。
そしたら、その話に感銘を受けたっぽい校長が号泣、何が何でもこの面談には顔を出す! という話になったのだった。なんでや。
「初川! 久しぶりだな!」
「は、はい。いつもうちの馬鹿息子が世話になっております」
校長の大きな声に、普段の尊大な態度の親父はどこへやら。
今はすっかり縮こまり、平身低頭なご様子。
「何が莫迦息子だ、ちゃんと見てやらんか! お前の息子は優秀だぞ!」
「えっ、いや、あの、ははは」
「はははじゃないぞバカチンが! お前は昔っから変わっとらんな!」
「校長、話が進みませんからその辺で」
「おう、そうだなガハハ! では神野先生、成績やら何やら、この莫迦親に教えてやってくれ!」
そこで神野先生から、先日実施した定期テストの結果や、全国統一模試の成績やらが語られた。
学年では堂々の第一位、そりゃ人生二度目なので、これぐらいはね。
しかし親父殿はつまらなそうにこちらを向き。
「お前、このぐらいの点は当たり前に取らないと、北路高校には行けんぞ?」
「あのさ、オレ自分から北路高に行きたいなんて、一度でも言ったか?」
「……なんだと?」
親父殿の目がつり上がる。身長は150そこそこな小柄な体型だと言うのに、もの凄い威圧感があるんだよな。
母者人に聞いたところ、若い頃はバーに入ると、店のおねーちゃんから『張り込み中の刑事さんとよく間違われた』と言うぐらいに、キリッとした顔立ちだったそうだ。
オマケに沸点低くて頭に血が上りやすく、オレが子供の頃は、ゲンコツを喰らいながら泣き泣き勉強した記憶もある。
自分の決めた事は絶対に曲げず、母者人も大分苦労していたっけな。
「おい初川!」
「はいっ!」
「お前、喧嘩は強かったし勉強も出来たが、人の親としては全然だな!」
「そうでしょうか?」
「ガキの頃は番長でありながら級長もやってたってのに、なんだ今のは!」
「と言うと?」
「世の中には『勉強しか出来ない莫迦』ってのがいてな。今のお前が正にそれだ! おまけに喧嘩っぱやくて手が付けられないとか最悪だぞ! お前自分の息子と、一回でもちゃんと話し合ったことがあるのか?」
「いえ……」
「だろうなこのバカチンが!」
「校長、その辺で」
「おお、すまんな。儂は昔この男の担任だったが、まー大変だったぞ」
それにしても、親父殿のこんな姿を見るのは初めてだ。すっかりしょぼくれている。まさか息子の前で、こうまで貶されるとは思っていなかったんだろう。
これは例の伯父に聞いた話だが、親父殿は近所の田んぼにB-29が墜落した際、中に忍び込んで機銃弾をかっぱらってきたことがあったんだそうだ。
そして自宅に持ち帰ってペンチで弾丸を引っこ抜き、小石を詰めて散弾を自作。山に出かけて雀だのなんだのを獲り、隣村の肉屋まで売りに行っては小遣い稼ぎをしていたとのこと。
で、その話を聞きつけた当時の担任、つまりいま目の前にいる校長に、顔の形が変わるほどブン殴られたという。
生きるために必死だった戦後すぐの時代とは言え、ホームラン級のバカである。
「お前の息子はな、お前とは違う」
「はい」
「行きたい高校に行かせてやれ。お前みたいな親にならんようにな」
「分かりました」
「そして徹君」
「はい」
「君は今のままでいい。君には仲間が大勢いる。心配事も悩み事もあるだろうが、君の思う道に進みなさい」
「ありがとうございます!」
四者面談、これにて終了。
親父殿は久しぶりにおっかない目に遭ったためか、教室を出た辺りで、
「……悪かったな」
とだけ呟き、そのまま無言で帰宅した。
別に擁護するわけじゃ無いが、でもまぁ悪い人ではないんだよ。
オレみたいな偏屈な男を、それでもちゃんと育て上げてはくれたんだ。そこは感謝しているし、尊敬もしている。
ただまぁ、手さえ出なければって話なんだよな。
さてさて、校長のお許しというか後押しもあり、自由に進学先を選べるようにはなったので、これから高校見学のスケジュールを確認しなくては。




