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五月・3 林檎殺人事件

「トーちゃんキタ───────────!!」


 ……懐かしいネタだな、玲華(おまえ)2ちゃんねらーだったのか。

 今日は休日。部活も無い珍しい日でもあり、昼近くまで惰眠を(むさぼ)っていたオレは、玲華の素っ頓狂な声で起こされた。……耳元から10センチという至近距離で。

 ミンミンゼミより騒々しい声にキーンという耳鳴りもそこそこ、オレは玲華に向き直ってアイアンクロー(いつもの)を喰らわせた。


「あたたたたー!?」

「いつも思うが、お前はちょっとでいいから、『(つつし)み』というものを学べと」

「ぎぶぎぶ! ぎぶみーおなさけー!」


 ぱっ。


「うう、そんなにアチキと結婚したいのかトーちゃん」

「お前の脳神経ショートしてんの?」

「そんなコトよりトーちゃんこれこれ!」

「何だよ」


 あ。


 玲華が手にしていたのは、例のブライダル騒動の時の雑誌、その今月号だ。

 猛烈に見たくないんだが、取り敢えず話ぐらいは聞いてやろう。


「すごいよトーちゃん! アチキ()の写真がそりゃもー大変なコトになってるんじゃよー!」

「あー、そうなのか? そりゃ良かったな」


 開いたページをぐいぐい押しつけてくるんだが、それじゃ見えんわ。

 玲華から雑誌を奪い取り、オレは問題のページを見た。


『6月と言えば”June bride”! 読者の皆様、素敵なお相手は見つかりましたか?』


 オレは最初の一行で挫折しかかった。

 どうして女性向け雑誌ってのはこう、歯が浮かぶような言葉を、恥ずかしげも無く平然と並べられるのか。


『3月号でホワイトデーについての特集記事を組んだ後、本誌では「ブライダル体験プレゼント!」を企画しましたが、なんとその企画に応募してくれたカップルさんと、協賛いただいた「ホテルKSK」様のご厚意により、このたび幸福度MAXな写真をお借りすることができました! ご協力ありがとうございました!』


 あー。


『気になるお写真は次のページからです、では張り切ってどうぞ!』


 ぺらり。

 そうして該当ページからぺらぺらと見ていったオレだが、……特集の最後の『協賛ホテル紹介欄』を見た途端、先ほど浮いた歯がそのまま成層圏を突き抜けた気がした。


 これ、マズイのでは?


━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━


「これはマズかったわねぇ、度会先生」

「はい……、面目次第もありません……」


 やっぱりね。


「未成年男子との結婚写真が全国紙に、ですか」


 神野先生がこめかみを押さえている。

 場所はもうとっくにおなじみの大特異点である。ルビの必要なんて今更よかろ?

 そして今は、ド正論な神野先生からのお小言に言い訳も出来ず、度会先生が下を向いて落ち込んでいなさる。


 現在ここにいるメンバーはと言えば、神野先生、度会先生、オレの計3人。飽くまで当事者だけでの話し合いの場だ。


 そう、問題とは「最後に撮った集合写真」のことである。

 肝心の企画である玲華とのツーショットはトップにドン! と載っているのだが、その特集の最後のページに、ホテルKSKの広告欄もシッカリ組まれていたのである。

 元々そういう合意の上での企画だったのか知らんが、まぁホテル側だってタダと言うわけには行かないだろうし、宣伝も兼ねてなんかやるんだろうなぁとは思っていたが、それにしたってさぁ……。


「あのー、神野先生?」

「何かしら」


 落ち込んでいる度会先生を見るに見かね、オレは援護を出すことにした。


「これって校長先生や教頭先生はご存じなんですか?」

「あの校長と教頭が、女性誌なんか見ると思う?」

「それはそうですね」


 ちなみのこの学校の校長は、オレの親父殿の元担任である。世の中狭いというか、田舎ならではと言うか。オレが中学に上がった時、待ってましたとばかりに声をかけてきた日が思い出される。


「君が初川ンの所の息子かね!?」

「あ、はい」

「おーおー、親父に似なくて良かったなぁガハハ!」


 親父殿、昔絶対に何かやらかしただろ……。

 まぁそれはさておき、どうやら神野先生の認識では、学校中がこの話題で持ちきり! という訳でもないのだそうだ。これひょっとしなくても、ファンクラブメンバーから何かしらの自浄作用が働いたと見たんだが、どうだろうか。


「では、ここは神野先生の胸に留めておく、ということで手を打ちませんか?」

「うーん、そうは言うけどねぇ」


 あ、ちょっと揺らいでる。上役(うえ)が何も知らないのであれば、これ以上の騒ぎにはならないと理解はしている様だ。


「人の噂も四十九 もとい 七十五日。二ヶ月チョイできれいさっぱり、『ハイそれまでョ』の精神で行きましょうよ」

「うーん、そうねぇ。でもねぇ」

「と言うかこの件って、度会先生もある意味では被害者なんですよ」

「どういうこと?」


 ()く斯く云々(しかじか)

 更にそこへ「失礼致します」と、コマちゃんが入って来た。うむ、仕掛けも良好。


「この度は、私どもの屋代が大変なご迷惑をお掛け致しました。誠に申し訳ございませんわ」

「そうなの……?」


 ほい一件落着。

 コマちゃんからの正式な謝罪もあり、度会先生もオレや玲華と動揺 もとい 同様、「同じ失敗を繰り返さない」ことを条件に、無罪放免と相成った。

 初川家(ほくと)香坂家(みなみ)(エース)級の家の活躍でどうにかなったな。



 ────その日の夜、妙な夢を見た。


 同級生はおろか下級生男子までもが、全員手に手に何かしらの得物を持ち、オレに恨み言をぶつけているのだ。

 何を言っているのかはハッキリとは分からない。

 ひたすら続く怨嗟の声が、遂に臨界を越えた時。



 ガシッ! ボカッ! オレは死んだ。ミンチの林檎(スイーツ)(笑)。

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