↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
101/107

五月・1 Turn It On Again

 昭和ならでの飛び飛びな黄金(Golden)週間(Week)を、特に変わったイベントも無く過ごし。

 今のオレは玲華と二人で自転車通学としゃれ込んでいた。

 いつもはオレが朝練のため、滅多にこんな風にはならないんだが、今朝は何故か玲華が家の前で準備万端、鼻息も荒く待ち伏せていたのである。

 見れば化粧っ気も無い中学生女子。

 それは見事な ”The Bear is under the eyes.” である。


 ……でもあの、その顔でずっと無言でいられるのはちょっとコワイんだが。


「あのー、何か言いたいこと、あるんだろ?」


 学校までのショートカットの道に入った時、オレから声をかけてみた。

 先行する玲華がこちらを見て、ゆっくりと停止した。

 周囲は高低差のある段々畑ばかり、主要道からは完全に死角になっている場所である。


「ねートーちゃん。いまって何かやってみたいこと、なーいー?」

「お前のその圧を何とかしたいが」

「そーじゃなくてー!」


 玲華がぷん! とむくれて叫んだ。


「またみんなでバンドやりたーい!」

「おお?」

「やりたいやりたいやりたいやりたい! またトーちゃんとぐっちーと、あとミホちゃんと一緒に歌いたーい!」


 ああそういう。

 そいやこの間の同好会勧誘の時以来、みんなでまとまってのバンド活動ってやってなかったしな。バンドやりたい熱が天元突破したんだろう。


「実は今朝! アチキ作曲の歌がひとつ完成したから、それをみんなでカタチにしてもらいたいんじゃよー!」

「え、出来たのか!?」


 フフンとドヤる玲華が、腹が立つほど可愛らしい。


「で、楽譜は?」

「カバンの中にバッチリさー!」

「各パート別か?」

「いえっさー!」

「パーフェクトだ玲華(ウォルター)。じゃあとっとと学校に行って、山口と涼木さんにも声かけようぜ」

「いやっふー!」


 すっかりごきげんだな。まぁ自分が作った曲がこの世に生を受け、初めて人に披露されるんだもんな、そりゃ嬉しいってもんだ。


 てっきり山口絡みの件かと思ったら、想像していたのとは全く違った。

 オレはちょっとだけ安堵しつつ、玲華と二人ペダルを漕いだ。


「……所でトーちゃん、ウォルターってだれ?」

未来で(いずれ)わかるさ」


━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━


「13拍子なんだ? へぇー面白いね」

「こんな楽譜、初めて見ました。私に弾けますかね……」


 そんなこんなでもう放課後。場所はいつもの大特異点(おんがくしつ)だ。

 山口は素直に感心し、ギターはまだまだ初心者の涼木さんは目を丸くしている。


「涼木さん大丈夫。まだ簡単な方だと思うよ。この楽譜を見る限り、4拍を二つ数えて次に5拍って感じだから」

「さっすがアチキの嫁、理解が早い! じゃあトーちゃんにリズム取ってもらって、最初は耳で慣れて貰おー」

「リズムなら任せろー!」

「バリバリー!」


 玲華(おまえ)、「実は未来から来ました!」とか言わないよな!?

 思わずマジックテープのサイフを買っちゃおうかと思ったわ。


 今はすっかりベースに転向した玲華だが、元はリードギタープレイヤーである。

 涼木さんと一緒に楽譜を見ながら、実質オレと二人だけのセッションが始まった。

 最初はゆっくりな、ゆーっくり。




 通しで三回ほど演奏してみた所、目で譜面を追いかけていた山口が「じゃあちょっと入るね」と、取り敢えずピアノで参戦した。

 おお、さすがは山口。玲華の小難しい楽譜を前に、要所要所を押さえた演奏が出来ている。

 見れば涼木さんも、なんとかコツを掴んだようだった。まだいくらかの練習は必要だが、それでもこの変拍子を身体で理解できつつあるのには、素直に感動する。


 途中で解説や雑談なども挟んだが、都合5回ほど演奏した所で楽しい時間は終わりを告げた。

 そろそろ下校時刻になるって頃に、度会先生が音楽室へ施錠にきた。


「なんだか随分と楽しそうな曲だったわね?」

「すごいでしょー! 会心の一撃なのですよー」

「それを言うなら『渾身の作品』だろ」


 度会先生が、オレ達全員を見てニッコリと笑った。


「さ、そろそろ帰りなさい。また明日もここで演奏したかったらね」

「「はーい」」


 先生の笑顔に見送られ、オレ達は音楽室を後にした。


「でもれいちゃんが作曲までしてるとは知らなかったよ」

「トーちゃんから聞いてなかった? 去年からもう始めてたんじゃがー」

「へぇー、そうなんだぁ」


 ────いつぞや、山口に「セッションしてみたい」と言われた日を思い出す。


 良かったな。

 今はあの頃と違って、新しい仲間もこうして増えたんだ。

 もっともっと、音楽の楽しみも増えるだろうさ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。