五月・1 Turn It On Again
昭和ならでの飛び飛びな黄金週間を、特に変わったイベントも無く過ごし。
今のオレは玲華と二人で自転車通学としゃれ込んでいた。
いつもはオレが朝練のため、滅多にこんな風にはならないんだが、今朝は何故か玲華が家の前で準備万端、鼻息も荒く待ち伏せていたのである。
見れば化粧っ気も無い中学生女子。
それは見事な ”The Bear is under the eyes.” である。
……でもあの、その顔でずっと無言でいられるのはちょっとコワイんだが。
「あのー、何か言いたいこと、あるんだろ?」
学校までのショートカットの道に入った時、オレから声をかけてみた。
先行する玲華がこちらを見て、ゆっくりと停止した。
周囲は高低差のある段々畑ばかり、主要道からは完全に死角になっている場所である。
「ねートーちゃん。いまって何かやってみたいこと、なーいー?」
「お前のその圧を何とかしたいが」
「そーじゃなくてー!」
玲華がぷん! とむくれて叫んだ。
「またみんなでバンドやりたーい!」
「おお?」
「やりたいやりたいやりたいやりたい! またトーちゃんとぐっちーと、あとミホちゃんと一緒に歌いたーい!」
ああそういう。
そいやこの間の同好会勧誘の時以来、みんなでまとまってのバンド活動ってやってなかったしな。バンドやりたい熱が天元突破したんだろう。
「実は今朝! アチキ作曲の歌がひとつ完成したから、それをみんなでカタチにしてもらいたいんじゃよー!」
「え、出来たのか!?」
フフンとドヤる玲華が、腹が立つほど可愛らしい。
「で、楽譜は?」
「カバンの中にバッチリさー!」
「各パート別か?」
「いえっさー!」
「パーフェクトだ玲華。じゃあとっとと学校に行って、山口と涼木さんにも声かけようぜ」
「いやっふー!」
すっかりごきげんだな。まぁ自分が作った曲がこの世に生を受け、初めて人に披露されるんだもんな、そりゃ嬉しいってもんだ。
てっきり山口絡みの件かと思ったら、想像していたのとは全く違った。
オレはちょっとだけ安堵しつつ、玲華と二人ペダルを漕いだ。
「……所でトーちゃん、ウォルターってだれ?」
「未来でわかるさ」
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「13拍子なんだ? へぇー面白いね」
「こんな楽譜、初めて見ました。私に弾けますかね……」
そんなこんなでもう放課後。場所はいつもの大特異点だ。
山口は素直に感心し、ギターはまだまだ初心者の涼木さんは目を丸くしている。
「涼木さん大丈夫。まだ簡単な方だと思うよ。この楽譜を見る限り、4拍を二つ数えて次に5拍って感じだから」
「さっすがアチキの嫁、理解が早い! じゃあトーちゃんにリズム取ってもらって、最初は耳で慣れて貰おー」
「リズムなら任せろー!」
「バリバリー!」
玲華、「実は未来から来ました!」とか言わないよな!?
思わずマジックテープのサイフを買っちゃおうかと思ったわ。
今はすっかりベースに転向した玲華だが、元はリードギタープレイヤーである。
涼木さんと一緒に楽譜を見ながら、実質オレと二人だけのセッションが始まった。
最初はゆっくりな、ゆーっくり。
通しで三回ほど演奏してみた所、目で譜面を追いかけていた山口が「じゃあちょっと入るね」と、取り敢えずピアノで参戦した。
おお、さすがは山口。玲華の小難しい楽譜を前に、要所要所を押さえた演奏が出来ている。
見れば涼木さんも、なんとかコツを掴んだようだった。まだいくらかの練習は必要だが、それでもこの変拍子を身体で理解できつつあるのには、素直に感動する。
途中で解説や雑談なども挟んだが、都合5回ほど演奏した所で楽しい時間は終わりを告げた。
そろそろ下校時刻になるって頃に、度会先生が音楽室へ施錠にきた。
「なんだか随分と楽しそうな曲だったわね?」
「すごいでしょー! 会心の一撃なのですよー」
「それを言うなら『渾身の作品』だろ」
度会先生が、オレ達全員を見てニッコリと笑った。
「さ、そろそろ帰りなさい。また明日もここで演奏したかったらね」
「「はーい」」
先生の笑顔に見送られ、オレ達は音楽室を後にした。
「でもれいちゃんが作曲までしてるとは知らなかったよ」
「トーちゃんから聞いてなかった? 去年からもう始めてたんじゃがー」
「へぇー、そうなんだぁ」
────いつぞや、山口に「セッションしてみたい」と言われた日を思い出す。
良かったな。
今はあの頃と違って、新しい仲間もこうして増えたんだ。
もっともっと、音楽の楽しみも増えるだろうさ。




