第四章 恋愛アプリと鳴り響くブザー
本作は、2015年に製作されたSFアクション映画『レプリカント・イブ』の原作を基にノベライズした作品です。
怒涛の展開、クスッと笑えるドタバタ劇、そして熱い友情と少し切ないSF展開。映画版の世界観や勢いをそのままに、小説ならではのテンポでお届けします。初めての方も、映像版をご存知の方も、最後までワクワクしながらお楽しみください!
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地面に突っ伏したまま、オサムはゆっくりと顔を上げた。
「すご……まるで、ミサイルみたいにブワーって!」
呆然と呟き、夜空から林へと突き刺さった光の軌跡を振り返る。
我に返ったオサムが隣を見ると、倒れている礼子の顔には、先ほどまで飲んでいたコーヒーの紙コップがべったりと張り付いていた。
「大丈夫?」
礼子が不機嫌そうに顔からコップを外して起き上がると、服の胸元はこぼれたコーヒーで茶色く染まってしまっていた。
「見たらわかるでしょ」
「ごめん、わざとじゃないんだ」
その時、オサムの耳から小型のイヤホンがポロリとこぼれ落ちた。
「何? これ」
礼子が、オサムからぶら下がっている不審なコードを指差す。
「何でもない」
オサムは慌てて、イヤホンに繋がった末端装置ごと背中に回して隠そうとした。
しかし、間の悪いことに、林への落下音に驚いたヤスシとミツオが、植え込みの陰から血相を変えて飛び出してきた。
「おおーい! 大丈夫か!」
ミツオの手には、画面がフリーズしたままのPC本体がしっかりと握られていた。
オサムが懸命に誤魔化そうとするが、礼子の視線はミツオのPC本体の画面に釘付けになっていた。そこには『恋愛シミュレーション』の文字と、先ほどオサムが語ったロマンチックなセリフがそっくりそのまま表示されていたのだ。
「……そういうわけだったの」
すべてを悟った礼子の声が、氷のように冷たく響く。
「さっきからわざとじゃない、わざとじゃないって……」
礼子は、オサムの首元からぶら下がっているイヤホンのコードをガシッと掴んだ。
「きっとこれも、わざとじゃないって言うんでしょ!」
「それ……」
オサムたちが青ざめる中、礼子は冷酷に言い放った。
「さようなら」
怒り心頭で帰ろうと背を向ける礼子。オサムは慌てて彼女を引き止めようと手を伸ばした。
「あっ、待って! 礼子さん!」
しかし、その手が運悪く礼子のバッグについた防犯ブザーに引っかかり、勢いよく紐を引き抜いてしまった。
ジリリリリリリリリッ!
けたたましい防犯ブザーの音が夜の公園に鳴り響く。
「うわっ!」
「お前、メカ担当なんだからなんとかしろよ!」
鳴り止まないブザーに慌てふためき、ヤスシがミツオに怒鳴る。
「メカって言っても、こんなもん簡単に止められないから価値があるんでしょ!」
パニックになったミツオが叫び返す。もみくちゃになる三人。そこへ、懐中電灯のまばゆい光が飛び込んできた。騒ぎを聞きつけた警察官たちが駆けつけてきたのだ。
「おい! どうしましたか!」
警察官が男たちを警戒するように照らし出す。
「お嬢さん、こいつらに何かされましたか」
「え?」
突然の警察官の登場に、礼子も戸惑う。
「ブザーが鳴り出して止まらないんです!」
ミツオが慌てて答えた。
「ぶたがおならした?」
警察官が素っ頓狂な声で聞き返す。
「ブザー! ブザー!」
オサムが必死に叫ぶ。その間もけたたましい音が鳴り続け、ついに苛立ちが限界に達した礼子は、自ら防犯ブザーを地面に叩きつけて壊し、強引に音を止めた。
静寂が戻った公園で、警察官が再び礼子に確認する。
「お嬢さん、本当にこいつらに何かされませんでしたか」
「何でもないです」
「本当ですか」
疑いの目を向ける警察官に、ヤスシが身振り手振りで必死に説明する。
「防犯ブザーの紐、間違って引いちゃったらブザーが鳴り出しただけだって。事故です、事故」
「僕たち、デートしてただけなんです」
ヤスシの言葉に重ねて、オサムも必死に訴えかける。
その言葉を聞いた瞬間だった。礼子は間に立っていた警察官を強引に押しのけ、オサムの目の前へと進み出た。
「デートなんかしてないわよ」
パシィッ!
鋭い音が響き、オサムの頬に礼子の容赦ない平手打ちが炸裂した。礼子はそれだけ言い残すと、足早に立ち去っていく。
「お嬢さん、送っていきましょうか」
警察官の一人が声をかけるが、
「結構です」
と短く返し、礼子の姿は夜の闇に消えていった。残された三人の男たちに、声をかけた警察官が呆れたように言う。
「ありゃダメだ。今のうちに諦めたほうがいいぞ」
「本官もそう思うぞ。……君、今の傷害に問えるけど、どうする? 被害届出す?」
もう一人の警察官が同情交じりにオサムの顔を覗き込む。赤く腫れた頬を押さえているオサムは、情けなさそうに首を振った。
「出しませんよ、ほっといてください」
「まあ、何があったか知らないけど、そのうちいいことだってきっとあるから。頑張れよ青年」
警察官たちはそう言い残し、パトロールに戻っていった。
静寂を取り戻した公園。オサムはがっくりと肩を落としていた。
「よかったな、いいお巡りさんで」
ヤスシが慰めるように言う。
「これでオサムも諦めがつくね」
ミツオの無神経な言葉に、オサムの怒りがついに爆発した。
「何言ってんだよ! お前らが俺たちに任せれば何の問題ないって言うから!」
「お前から頼んできたんじゃないかよ」
ヤスシが反論する。
「そうだけど……こんなもの持って、のこのこ出てくんなよ!」
オサムがミツオのPC本体を指差して怒鳴る。
「あんなものが落ちてくりゃ、そりゃ誰だって出てくるだろうが!」
ミツオが負けじと言い返した、その直後だった。
少し離れた林の中――先ほど紫色の光が墜落した場所が、突如として不気味に発光した。
「え……?」
オサム、ヤスシ、ミツオの三人は言葉を失い、妖しく揺らめく紫色の光に照らされながら、ゆっくりと顔を見合わせた。
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