11-4 妨害
『始め!』
声とともにカイレルが突っ込んできた。ローリアはすんでのところでかわしたが、当たったら確実にやられていただろう。言葉通り、手加減する気はなさそうだった。
直接攻撃を防ぐために離れたが、カイレルは今度は複数の閃光弾を放ってきた。ローリアは横に飛び退いてよけたが、カイレルはすばやくそこに移動してきて蹴りを入れてきた。ローリアは軽く飛ばされたが、空中で体勢を立て直し、
「とりゃーっ!」
特大の魔法を放った。カイレルはもちろんかわしたが、爆風にやや驚いたようだった。
「さすがソムィーズ!魔力は段違いだな!」
カイレルが笑ったかと思うと、すばやくローリアに近づいてきて思い切り殴った。ローリアは飛ばされて倒れた。
「おい、なんだ今のは」
客席がどよめいていた。
「見ていられないわ、紳士が女に殴りかかるなんて」
令嬢の一人が言った。
「競技なんだから仕方ないだろう」
隣の男が言った。
「くっ……」
ローリアはすぐ起き上がり、魔法で次々と光の矢を作って連続で放った。カイレルは器用によけていったが、
「てやっ!」
おまけで放った炎がみごとに当たった。
「チッ」
カイレルが舌打ちした。炎はすぐに消されたが、カイレルの服の袖が焼けて消えた。
ローリアはそのすきに突っ込んでいって、両手で拳を合わせると思いっきり打撃を加えた。カイレルはよけようとしたが、動く方向を予想していたローリアは、そちらに土の魔法で罠を仕掛けていた。
「うわっ」
カイレルが足を取られたすきに、ローリアは蹴りを入れた。カイレルが軽く飛んで倒れた。
その時だった。
客席から、光の玉が飛んできて、ローリアのすぐ横で爆発が起きた。
「きゃあっ!」
ローリアは不意を突かれて飛ばされた。
「何だ今のは」
カイレルが起き上がってまわりを見た。すると、また客席から玉が飛んできた。しかも無数に。
すべてローリアを狙っていた。
「くっ!」
ローリアはよけるために走り回った。
「おい!やめろ!何をしている!?」
カイレルが客席に向かって怒鳴った。
「生意気な女に制裁を加えてやるのさ!」
誰かの叫びが聞こえた。
『中止!競技中止!』
審判が叫んだ。
『客席から攻撃するのはやめなさい!』
しかし、攻撃はやまなかった。ローリアを狙って、光魔法の玉や、炎や、氷の塊が無数に飛んできた。どうやら、攻撃してきているのは一人ではないらしい。
「ちょっと!やめなさいよ!」
客席ではアルマが叫び、侯爵夫人と一緒に会場を回って犯人を捜していた。
侯爵は特別席から、このいまいましい様を見ていた。
「なんだこれは!」
競技委員会のメンバーが叫んでいた。
「若者たちです。たぶん、男が女に負けるのが我慢できないんでしょう」
「だからって協議中に客が攻撃を仕掛けるとは!」
ざわつく競技委員会のお偉方をちらっと見てから、侯爵はそろそろ魔封じを使うべきか考えていた。それに、娘の今後も心配していた。
たかが競技で目立ったくらいでこのありさまだ。これからローリアが外で権力を振るうようになったら、どんな反発が来るかわからない。嫌がらせの手紙といい、アッパラパーの態度といい、女が上に立とうとすると男はここまで反発するものなのか。
会場では、ローリアとカイレルが一緒になって客席からの攻撃をかわしていた。最初ローリアだけを狙っていた攻撃は、なぜかカイレルにも向けられるようになっていた。
「隙を見て控え室に飛び込もう」
カイレルが言った。
「こんなことになってすまない」
「なんであなたが謝るのよ?」
ローリアは飛んできた魔法をかき消しながら言った。よってたかって攻撃されることに恐怖を感じていた。
まわりが敵だらけ。
こんなことは初めてだ。
「男を代表して謝ってるのさ」
「あんなバカを代表しなくてけっこうよ」
ローリアは思った。客席の男たちのバカさ加減ときたら! ほとんど狂気だ。女の子をいじめて楽しんでいる小さな男の子と行動が変わらない。しかし彼らはもう大人だ。権力を持った紳士だ。自分のやっていることがわかっているのだろうか?
二人はゆっくりと出口に近づいていった。
しかし、誰かが風の魔法を使って二人の歩みを妨害した。立ち止まっている二人を見て誰かがげらげら笑っている。
ローリアはその笑い声を聞いた途端、
『いいかげんにしなさあぁぁぁい!』
とうとうブチ切れた。
ローリアが怒鳴ったとたん、全身からすさまじい量の電撃が放たれた!
会場の全員がピリピリとしびれ、動けなくなった。
「あんたたち! それでも女神に仕える紳士ですかっ!?」
教師の娘、ローリアの説教が始まった。
「紳士の誇りはどこに行ったんですかっ!? 仮にも人の上に立つあなたたちが、模範的な行動ならともかく、規則違反をして笑っているなんて! 恥ずかしなくないんですかっ!?」
会場はしーんと静まり返った。
「ハッ」
ローリアはその静寂で我に返った。
「し、失礼しましたぁ」
顔を真っ赤にしながら、
「退場しますぅ」
電撃でビリビリきて動けなくなっているカイレルを引きずって、慌てて控え室に引っ込んでいった。
「いやあ、驚きましたな」
特別席では、委員会メンバーがビリビリしながら話していた。
「会場の全員を止めるとは」
「すさまじい魔力ですな、ソムィーズ卿」
侯爵は空になった会場をじっと見ていた。
「そうですね」
侯爵が外を見たまま言った。
「ローリアは、思ったよりもずっと早く、僕を超えるかもしれない」




