11-5 くまさん
控え室に逃げ戻ったローリアとカイレルは、疲労で床に倒れ込んだ。
「こ、怖かったぁ」
ローリアは今更ながら震えてきた。まさか客席からよってたかって攻撃されるとは夢にも思っていなかった。女が競技会に出ただけであんなに反発を食らうとは。
「かばってくれてありがとう……カイレル?」
隣を見ると、カイレルが白目をむいて気絶していた。
「カイレル!? カイレル! どうしたのよ!?」
「無理もないですよ。あの電撃を真横で食らってはね」
グレイ・ワラビーが近寄ってきた。担架を持った係員が近づいてきた。
「やだ!? 私のせい?」
「あなたのせいではありませんよ」
グレイが運ばれていくカイレルを見ながら言った。
「大丈夫かしら」
「あいつは強靭だから、これくらいじゃ死にませんよ」
ローリアは立ち上がろうとしたが、身体に力が入らず、へたりこんでしまった。怒った勢いで魔力を放ちすぎてしまったのだ。
「おうお嬢様、大丈夫か?」
そう言いながら控え室に入っていたのは、ガーウィン・ハーヴィスだった。
「くまさん、来てたの?」
ローリアは床からガーウィンを見あげた。狭い控え室で見るとますます大きく見える。
「いい戦いしてたじゃねえか。バカどもに邪魔されたがね……レディ・マーデスから伝言を預かってるよ」
ガーウィンがカードを差し出した。そこにはこう書いてあった。
『兄をいたぶってくれてありがとう。
人生で一番楽しい日だわ』
「何これ」
ローリアは笑ってしまった。
「きょうだいゲンカでもしてるの?」
「カイレルが攻撃を食らうことなんてめったにないんですよ」
グレイが言った。
「あなたは強いですね」
「でもみんなは、強い女は嫌いみたいね」
「気にするな。妬んでるのさ。客席にいる男どもは競技会に参加すらできない奴らだからな」
ガーウィンが言った。
「デビュー戦のお祝いにおごってやるよ。飯食いに行こう」
「飯」
品のない言い方が妙に似合っていて、ローリアは笑ってしまった。
「悪いけど、今は動く気力がないの」
ローリアは床に倒れた。
「じゃあ俺が運んでやるよ」
ガーウィンは軽いものでも持ち上げるように、ひょいっとローリアを抱き上げた。グレイが驚いて一歩後ろに下がって目を丸くした。
「どこへ──行くつもり?」
ガーウィンの胸元で、ローリアはどきどきしながら尋ねた。
「近くに鶏の丸焼きがうまい店があるんだ」
ガーウィンが笑って言った。
「今日はマナーも忘れて、でかい肉にかぶりつこう」
30分後。
二人は薄汚れた木製のカウンターで、肉にかじりついていた。あまりにも勢いよく肉を平らげていくので──特に小さな女の子が!──店員も周りの客も驚いていた。
ローリアは人生で一番というくらい大量に食べていた。貧しかった時代は肉なんてなかなか買えなかったし、侯爵の屋敷に来てからは上品なディナーだったので、こんなに量を食らうことはなかった。
それに、こんなにおなかがすいたこともなかった。きっと魔力と体力を使いすぎたのだろう。
「元気出ただろ、ローリア」
ガーウィンが肉を食いながら言った。
「こういう行儀が悪いのもたまにはいいだろ?」
「私にとってはすっごい贅沢よ」
ローリアが言った。
「アルマにも食べさせてやりたいわ」
「いっつも妹のことを考えてるんだな」
ガーウィンが言った。
「さっき客席で、魔法を投げてる男につかみかかってる妹さんを見たぜ」
「えっ……大丈夫かしら」
「兄貴が止めたから問題ないさ」
ガーウィンが肉の骨を放り投げて、手を振るような動作をした。
「この国は遅れてるな」
天井に吊るされている光り石を見つめながら、ガーウィンが言った。
「女が男と同じ事をしようとすると──いや、越えようとすると、と言ったほうがいいかな。『そんなの許せない!』とばかりに攻撃を始める。イシュハにもそういう奴はいるがね、しかし、あっちにはもう女の社長やリーダーは普通にいるんだ」
「そうなの?」
「まあ、雇ってもらえないから自分で会社を作ったって女が多いから、未だに女性が働くのを認めていない会社が多いんだが。変わってきてはいるよ」
ガーウィンが言った。
「それに、あっちの女たちは、普通に武器を持って戦うからな。王妃様の友達の話は聞いたことあるか?」
「西の塔の結界を破った人?」
「女戦士なんだが、でかい刃物を振り回して敵を真っ二つにしてたらしいぜ」
「うわ、怖い」
魔法より物理攻撃のほうが怖がられるのがロンハルト王国だ。ローリアも怖くなった。そんな敵が現れたら遠くに逃げて攻撃するしかない。
「どうだ、今度一緒にイシュハに行ってみないか?」
ガーウィンが親しげに言った。
「行くのに4日くらいかかるが、外国を見ると人生観が変わるぜ」
「う〜ん……」
ローリアが考えながら肉をかじっていると、
「楽しそうにやってるね」
「フグムッ」
聞き覚えのある声がしたので喉を詰まらせた。
店の入口を見ると、ソムィーズ侯爵がいて、あきれ顔でこちらを見ていた。




