11-1 競技会前日
ソムィーズ邸に帰ってきてから一ヶ月が経った。
「てやっ!」
競技会前日。ローリアは庭で、デュドネ・カユザクに殴りかかっていた。ケンカではない。実戦訓練だ。
「はっ!」
蹴りつけた反動で後ろに大きく飛び、攻撃魔法を放った。デュドネはそれを片手で消し飛ばした。
「くっ……」
ローリアは口元をゆがめた。相手が大物なのはわかっているが、簡単に攻撃をかき消されると悔しい。
一瞬の隙に、デュドネが光線を放ってきた。ローリアは飛び上がってかわした。地面に軽い爆風と煙が上がった。
「はあっ!」
そのまま拳で攻撃に入った。デュドネは片腕でそれを受け、ローリアをはじき飛ばした。
ローリアは地面を転がりながらも体勢を整え、光の魔法を連続で放った。デュドネが走ってよけていった。
「狙いが甘いぞ!」
デュドネが軽く何かを投げつけてきた。ローリアは避けたつもりだったのだが、
チュドーン!
「キャアアア!」
爆発が起きて、ふっ飛ばされた。
「ひ、卑怯です!爆発物をぶん投げるなんて!」
ローリアがわめいていると、
「戦場に卑怯もへったくれもあるか」
デュドネが冷ややかに言った。
「何をしてくるかわからん奴だらけだぞ。奇襲をかけてきたり、仲間を人質に取られたり、監禁されたり」
デュドネがローリアに近づいてきて腕を組んだ。
「それに、貴族のおぼっちゃまなんて、平民も女も見下しているからな。本当に何をされるかわからんぞ」
「やっぱり私が平民の出だから、なめてると思います?」
「俺も平民の出だからな」
デュドネが言った。
「バカぼっちゃんには悩まされたもんだ……まあ、今のお前なら、3回戦くらいはいけるんじゃないか」
「3回戦ですか」
ローリアはちょっとがっかりした。
「言っとくが、『もう無理だ』と思ったらすぐ降参しろよ」
「えっ」
「勝てないときは逃げるのも大事だ」
デュドネが真面目な顔で言った。
「下手に深入りして傷を負いすぎると、立ち直れないこともあるからな。引き際を見極めるのも戦闘能力のうちだぞ」
「引き際ですか」
「そうだ。一人で勝手に死ぬのは構わん。しかし、仲間や兵士を率いているときはそうはいかない。無理に進軍しても死者を増やすだけだ。わかるだろ。撤退の判断を間違うとどれだけの責任を負うことになるか」
「人の命がかかってますものね」
「そうだ」
デュドネがしゃがんで、ローリアを見て笑った。
「だから、爆発物を投げるバカに会ったら、逃げるのが正しい」
「えぇ〜……」
ローリアが顔をしかめた。
「でも、敵が爆発物を使ってきたらどうします?」
「どうもこうもないだろ。当たったら終わりなんだから、逃げながら攻撃するしかないだろうが」
デュドネが立ち上がった。
「もう1回やるぞ」
2時間後、ローリアはお茶を飲んで休みながら、明日着る戦闘用ドレスを眺めていた。レディ・アマンダ・ルビンシャーに紹介されたデザイナーが作ったもので、ピンクと黒のチェック柄で、リボンとひだ飾りが付いていた。
「なんでピンクなの!?」
初めて見たとき、ローリアは思わず叫んだ。『落ち着いたデザインにしてね』と言ったはずなのに、お人形の服みたいになっていたからだ。
「お嬢様。戦闘だからといって女性らしさを忘れてはいけません。ましてや、男性だらけの中に入っていくのですから、女性だということが際立つ服装でなくては」
「かえって狙われやすくなるじゃないの。目立ったら」
「パフォーマンスにはこれくらいがちょうどいい」
「パフォーマンスって何よ!?」
どうも、『女性だから』ということで戦うこと自体を重要視されていないようだ。試着してみたら思ったよりずっと動きやすかったので、そこは考えてくれたようなのだが。
「美人が着ると映えますなあ! ハハッ!」
このデザイナーはあまり好きになれないとローリアは思った。
いよいよ明日だわ。
ローリアは枕をぎゅっとつかんだ。
明日、勝って、いい結果を出せば、女の子だって戦えると証明できるし、長男たちにも認められるかもしれない。
「女神様、お守りください」
ローリアは女神アニタに祈った。ベッドで祈ってから、ちゃんとしようと思って女神像がある祭壇まで行った。
すると、そこには侯爵夫人がいた。祭壇の前にひざまずいて熱心に祈っている。
ローリアはその姿を見て、昔、母親が同じように祈りを捧げていたのを思い出した。
「あら、いたのね」
侯爵夫人がローリアに気づいた。
「明日のために祈っておいたわ。もう準備はできたの?」
「準備万端です……」
『お母様』と言いそうになって、ローリアはためらった。
「がんばってね」
侯爵夫人は微笑みながら去っていった。
ローリアは祭壇にひざまずき、祈りをささげた。
明日、勝てますように。
それから、侯爵夫妻のことを、本当の両親だと思えますように。




