ゴールデンエイジ③
蛭間ホテルは、街から少し離れた山沿いに建っていた。
夕暮れの中、廃業したホテルの建物が黒い影となって浮かんどる。
壁の塗装はところどころ剥がれ、屋上に掲げられた看板も半分ほど文字が落ちていた。
正面玄関には鎖がかかっとる。
せやけど、建物の脇には何台もの車が停まっていた。
どう見ても無人やない。
悟さんは、ホテルから少し離れた場所にワゴンを停めた。
「俺はここで待つ。何かあったら、すぐに連絡しろ」
「あいあい。子ども見つけたら連れてくるわ」
俺が車を降りると、先に来ていた一樹がホテルの壁際から姿を現した。
「やっぱ外は寒いな…… すまん。待たせた」
「いや。それより、裏口から男が二人出入りしている。正面にも見張りが一人いる」
「子どもは?」
「まだ分からない」
一樹が薄暗いホテルを見上げる。
「まず、子どもたちが本当にいるかを確かめる。戦うのはそのあとだ」
「正面から全員しばいたほうが早ない?」
「子どもを人質に取られたらどうする」
「冗談やって」
一樹は俺を一度だけ睨み、ホテルの裏手へ歩き出した。
俺もその背中を追う。
ホテルの裏口は、少しだけ開いとった。
中へ入ると、薄暗い廊下が奥まで続いている。
電気は通っとるらしく、天井の照明がいくつか点いていた。
古い絨毯には新しい泥の跡が残り、煙草の匂いもする。
人がおる。
それも、一人や二人やない。
一樹が足を止め、俺にも止まるよう手で合図した。
廊下の角を曲がった先から、男たちの話し声が聞こえる。
「なあ、あのガキども、いつ引き渡すんだ?」
「明日の夜だ。能力を使えるところも、向こうに見せるらしい」
「まだ泣いてんのか?」
「放っとけ。売っちまえば、もう俺らには関係ねえよ」
一樹の表情が変わった。
噂やなかった。
こいつらは、本当に子どもを攫っとる。
一樹が俺を見る。
俺も小さく頷いた。
角の向こうへ踏み込む。
こちらに気づいた男の一人が、目を見開いた。
「誰だ、てめ――」
最後まで言わせへん。
俺は一気に距離を詰め、男のみぞおちへ膝を入れた。
身体をくの字に折った男の顎へ、そのまま蹴りを振り上げる。
男の身体が壁へぶつかり、ずるずると床へ沈んだ。
もう一人は、一樹が床へ押さえつけていた。
腕を背中へ回され、顔を絨毯へ押しつけられとる。
「子どもたちはどこだ?」
「し、知らねえ……」
男が呻く。
俺はしゃがみ込み、その顔をのぞいた。
「一樹。こいつ、話を聞かん顔しとるわ」
「そうみたいだな」
一樹の空いた手のそばに、青い召喚陣が浮かんだ。
小さな青い炎が噴き出し、男の顔のすぐ横で揺れる。
「ひっ……!」
「もう一度聞く。子どもたちはどこだ?」
「二階! 二階の大宴会場の奥にある控え室だ!」
男はすぐに吐いた。
「最初から素直に答えたらええのに」
俺が立ち上がると、一樹が男の首筋へ手刀を落とした。
男は短く呻き、そのまま動かなくなる。
「死んどらんよな?」
「気を失わせただけだ」
「それ、漫画以外で初めて見たわ」
◇
二階の大宴会場へ続く廊下には、見張りが三人おった。
せやけど、警戒しとる様子はない。
一人目には、俺が背後から忍び寄った。
首へ腕を回し、声を上げる暇も与えず締め落とす。
力を失った身体を、音が立たんよう絨毯の上へ横たえた。
残る二人が異変に気づいて振り返ったときには、一樹が目の前まで迫っとる。
拳が一人の腹へ突き刺さる。
もう一人が鉄パイプを振り上げたが、俺が足を払うほうが早かった。
男が倒れる。
そのまま鉄パイプを蹴り飛ばし、胸元を踏みつける。
「中に何人おる?」
「に、二十人くらい……」
「子どもらは?」
「宴会場の奥にある控え室だ。お、俺は見張ってただけで、何もしてねえ!」
俺は一樹と顔を見合わせた。
「二十人やって」
「問題ない」
即答やった。
思わず笑ってもうた。
「ほんま、自分ええ性格しとるわ」
一樹が宴会場の扉へ手をかける。
「梓。子どもたちを優先するぞ」
「分かっとる」
扉が開く。
宴会場の中にいた男たちが、一斉にこちらを振り向いた。
広い会場には、円卓や椅子が乱雑に置かれとった。
酒の瓶。
煙草の吸い殻。
金属バットや鉄パイプ。
その奥に、二人の男が立っとる。
手に持っているのは、拳銃やった。
「誰だ? おめーら」
中央にいた男が、低い声で言う。
四十手前くらい。
身体は大きく、首元から頬にかけて刺青がのぞいとる。
凶鬼の頭やろう。
「二人で乗り込んでくるとは、舐められたもんだな」
「子どもらを返してもらいに来た」
一樹が一歩、前へ出る。
「今すぐ解放しろ。そうすれば、これ以上は何もしない」
「ガキが何を偉そうに――」
凶鬼の頭が片手を上げた。
その瞬間、拳銃を持った二人が銃口をこちらへ向ける。
せやけど、引き金が引かれるより早く、一樹の前に青い召喚陣が開いていた。
二筋の青い炎が、蛇のように絨毯の上を走る。
男たちの足元まで届くと、一気に跳ね上がった。
青い炎が、拳銃へ絡みつく。
「熱っ!」
二人がたまらず拳銃を手放した。
床へ落ちた銃は赤く熱せられ、銃身を歪ませながら溶けていく。
「撃てるものなら、撃ってみろ」
「てめえら、やれ!」
凶鬼の頭が怒鳴る。
男たちが一斉に武器をつかんだ。
ナイフ、斧、鎖。
金属バットや鉄パイプ。
人数と武器さえあれば、俺たちもほかのガキと変わらんと思っとるんやろう。
男たちが、まとめて襲いかかってくる。
俺も足元へ召喚陣を展開した。
紫がかった黒い光の中から、長い柄がせり上がる。
大鎌をつかみ、そのまま一回転させた。
刃の腹が、先頭にいた男の脇腹へ叩き込まれる。
男の身体が隣にいた仲間を巻き込み、床を転がった。
その横を、一樹が駆け抜ける。
振り下ろされた斧を半歩ずれてかわし、男の顔面へ拳を打ち込む。
鎖を振り回す男が、一樹の背後へ回り込もうとする。
俺は大鎌を振るった。
柄が途中から黒い鎖へ変わり、刃だけが遠くへ伸びる。
刃の腹が男の胸元へ叩きつけられ、その身体を床へ転がした。
その間に、一樹は二人目の男を蹴り倒しとる。
相談なんかしとらん。
せやのに、お互いが次に何をするのか、なんとなく分かった。
俺が相手の動きを止めれば、一樹が倒す。
一樹が正面を崩せば、俺の大鎌がその隙へ飛ぶ。
ほんのわずかな間に、宴会場の床には何人もの男が倒れとった。
「ば、化け物どもが……」
凶鬼の頭が後ずさる。
「その呼び方は、あんまり好きやないな」
俺は笑いながら、大鎌を肩へ担いだ。
「ガキ攫っといて、人のこと化け物呼ばわりかいな」
そのときやった。
低い地鳴りのような音が、宴会場に響いた。
床が、小さく揺れる。
「なんや……?」
天井から、ぱらぱらと埃が落ちてきた。
一樹も周囲を見回す。
次の瞬間。
会場の中央に、黒い亀裂が走った。
空間そのものが裂けたように、黒い隙間が縦に広がっていく。
その奥から、巨大な指が現れた。
灰色の肌。
丸太のように太い腕。
黒い亀裂を押し広げ、一体の巨人が宴会場へ這い出してくる。
天井へ届きそうなほどの巨体。
異様に発達した両腕。
顔の中央には、大きな目が一つだけ開いとる。
その下には、何重もの歯が並んでいた。
「なんや……あれ……」
巨人の一つ目が、ゆっくりと動く。
最初に俺を捉え、次に一樹を見る。
倒れていた凶鬼の男が、何も知らずに立ち上がった。
「なんだよ……この亀裂は……」
巨人の腕が振るわれる。
「危ない!」
一樹が叫んだ。
せやけど、間に合わんかった。
男の身体が横から殴り飛ばされ、太い柱へ叩きつけられる。
鈍い音。
男はそのまま床へ崩れ落ち、動かなくなった。
「な、なんだ!?」
「何が起きた!」
凶鬼の連中が騒ぎ始める。
目の前に化け物がおるというのに、誰もそっちを見とらん。
見えとらんのか。
「あいつら……こいつが見えてへん」
一樹も気づいたらしい。
「全員、逃げろ!」
一樹が凶鬼の男たちへ叫ぶ。
「てめえら、何しやがった!」
一人の男が鉄パイプを振り上げ、俺へ向かってきた。
その背後から、巨人の腕が迫っとる。
「後ろや!」
男には、俺が何を言っとるのかも分からんかったんやろう。
振り返ることすらせんかった。
巨人の手が男の身体をつかみ、そのまま床へ叩きつける。
一度。
二度。
男の声が聞こえなくなった。
「一樹! こいつ、滅茶苦茶やぞ!」
「見れば分かる!」
巨人の一つ目が、今度は俺を捉えた。
太い腕が横薙ぎに振るわれる。
俺は床へ身を伏せた。
頭上を通り過ぎた腕が、円卓をまとめて吹き飛ばす。
木片と金属が、宴会場中へ飛び散った。
俺は立ち上がりざまに大鎌を振るう。
刃が巨人の腕へ食い込んだ。
浅い。
「硬っ……!」
巨人が、傷ついた腕を俺へ振り下ろす。
避けられへん。
そう思った瞬間、横から青い炎が噴きつけられた。
巨人が腕を引き、炎から逃れるように上体を反らす。
一樹が俺の横へ並んだ。
「無事か?」
「おかげさんでな」
「刃は通るか?」
「硬い。斬れんわけやないと思うが」
「なら、動きを止めろ」
「簡単に言うなあ」
一樹は俺を見なかった。
巨人だけを、まっすぐに見据えとる。
「できるだろ?」
俺は思わず笑った。
「誰に聞いとんねん」
巨人が咆哮を上げ、一樹へ突進する。
俺は、その進路へ飛び込んだ。
振り下ろされた腕をかいくぐり、巨人の足元を駆け抜ける。
通り過ぎる一瞬で、床へ二つの召喚陣を展開した。
続いて、壁際に倒れとった円卓を踏み台にして跳ぶ。
身体が壁へ近づいた瞬間、その表面へ二つの召喚陣を残した。
床に二つ。
近くの壁に二つ。
俺がその場を離れたあとも、四つの召喚陣は紫がかった黒い光を放ち続けとる。
「捕まえたで」
陣の中から、鎖につながれた大鎌が一斉に飛び出す。
壁から伸びた二本が、巨人の両腕を捉える。
床から伸びた残る二本が、両脚へ巻きついた。
四方向から鎖が張り詰め、巨人の身体が前へ大きく傾く。
それでも、止まらん。
巨人が咆哮を上げ、力任せに身体を起こそうとした。
四つの召喚陣が激しく明滅する。
床に残した陣の周囲で、古い絨毯が引き裂かれた。
その下に露出したコンクリートへ、細い亀裂が走る。
壁に展開した陣の周囲でも、壁紙が剥がれ、下地が音を立てて砕けていく。
「ほんま……馬鹿力やな!」
「梓!」
一樹の声が響く。
その前には、すでに青い召喚陣が開いとった。
「長くはもたんで!」
言い終わるより先に、炎が噴き出した。
青い奔流が、巨人の全身をのみ込む。
『ギャアアアアアアッ!』
巨人が苦痛の声を上げ、炎から逃れようと暴れた。
鎖が激しく軋み、四つの召喚陣が明滅する。
床の亀裂が大きく広がった。
壁の一部が崩れ、細かな破片が降り注ぐ。
それでも、一樹は炎を緩めへん。
青い炎は巨人の全身へ集中し、さらに激しく燃え上がった。
やがて咆哮が弱まり、振り回されていた両腕からも力が抜けていく。
巨人の身体が大きく揺れた。
その膝が、床へ落ちる。
ドンッ!
同時に、青い炎が消えた。
その瞬間には、俺はもう地面を蹴っとった。
足元の召喚陣から新たな大鎌を引き抜き、膝をついた巨人の肩へ片足をかける。
ああいう獣じみたもんは、死にかけがいちばん危ない。
せやから――確実に仕留める。
「これで終いや!」
ザンッ!
紫色の刃が、巨人の首を一閃した。
巨大な頭部が宙を舞い、重い音を立てて絨毯の上へ落ちる。
遅れて、首を失った身体が前のめりに倒れた。
ズシンッ――!
宴会場全体が、大きく揺れた。
俺は大鎌を構えたまま、一樹を見る。
一樹も青い召喚陣を消さず、倒れた巨人を見つめとる。
「……倒したんか?」
「ああ。たぶんな」
俺が術を解くと、巨人を拘束していた鎖と大鎌が黒い粒子になって消えた。
せやけど、巨人の死体はその場に残ったままやった。
「……なんやったんや、こいつ」
「分からない」
「凶鬼の連中には、見えてへんかった」
「ああ」
分からんことばかりやった。
どこから現れたのか。
なんで俺たちを狙ったのか。
これまでにも、同じような化け物が出たことはあるのか。
せやけど、今は考えとる場合やない。
俺と一樹は宴会場の奥へ向かった。
控え室の扉へ手をかける。
開かへん。
鍵がかかっとるようや。
一樹が扉の錠前へ手を向けた。
その手元に小さな青い召喚陣が開き、細く絞られた炎が伸びる。
金属製の錠前が赤く熱せられ、形を失っていった。
「ほんま便利やな、それ」
俺が扉を押す。
中には、三人の子どもがおった。
小中学生くらいだろうか。
両手を縛られ、部屋の隅へ固まるように座っとった。
俺たちを見ると、全員が身体を震わせる。
「大丈夫や」
できるだけ笑ってみせた。
「迎えに来たで」
俺と一樹で、子どもたちの縄を解いていく。
怪我をしとる子もおったが、幸い、歩けへんほどではない。
一番小さな男の子が、宴会場のほうを見て、震える声で尋ねた。
「あの……一つ目の化け物は……?」
俺は一樹と顔を見合わせる。
やっぱり、この子らには見えとった。
「もう大丈夫や。俺らが倒した」
そう答えると、男の子の表情が少しだけ緩んだ。
やがて、倒れた巨人の輪郭がゆっくりと崩れ始めた。
灰色の身体が黒い粒子へ変わり、空気の中へ溶けていく。
切り落とした頭部も、倒れた巨体も、しばらくすると跡形もなく消えた。
あとに残ったのは、破壊された宴会場と、凶鬼の男たちの遺体だけやった。
俺は悟さんへ連絡し、ホテルの裏口へ車を回してもらった。
◇
俺たちは子どもたちを連れてホテルを出た。
悟さんのワゴンへ全員を乗せ、ひとまずホームへ向かう。
親元へ帰れる子もおるやろうし、ほかに帰る場所を探さなあかん子もおる。
せやけど、それを確かめるんは、全員を安全な場所へ連れ帰ってからや。
ホームへ着く頃には、すっかり日が暮れとった。
俺が玄関の扉を開ける。
「ただいまー」
足音を聞きつけた勝が、廊下の奥から走ってきた。
俺の後ろに並んどる子どもたちを見ると、その目を丸くする。
「……梓。また拾ってきたんか?」
「今回は一樹も共犯や」
「人聞きの悪い言い方をするな」
一樹が呆れたように言う。
その声を聞いて、今度は海が厨房から顔を出した。
エプロン姿のまま、俺たちの後ろにいる子どもたちを見る。
一瞬、驚いたように目を見開く。
それから、すぐにいつもの笑顔になった。
「おかえり」
海は俺と一樹へそう言ってから、子どもたちの前まで歩いてきた。
怯えとる小さな子に合わせて、腰をかがめる。
「みんなも、いらっしゃい」
優しく笑いかける。
「お腹空いてない? ご飯、できてるよ」
その声に、子どもたちの表情が少しだけ緩んだ。
美嘉も厨房から出てきて、人数を数える。
「三人か。皿、追加しないとな」
黒石さんは何も聞かず、食堂から椅子を運び始めた。
悟さんも手伝い、勝は子どもたちへ食堂の場所を教えとる。
見たこともない化け物が出てきても、一樹と二人なら倒せた。
救った子どもを連れて帰れば、海が飯を作り、美嘉が皿を並べ、黒石さんが黙って椅子を増やす。
何が起きても、俺たちならなんとかできる。
あのときの俺は、本気でそう信じとった。
◇
俺たちは気づいていなかった。
あの化け物が現れた混乱の中で、ホテルの裏口から逃げ出した凶鬼の構成員が三人おったことに。
そのうちの一人は、仲間が見えない何かに殺される瞬間を見ていた。
せやけど、そいつには異客の姿が見えてへん。
見えていたのは、青い炎を放つ一樹と、大鎌を振るう俺だけ。
「青い炎と、あの大鎌……聞いたことがある」
「たしか、デモンズの連中だ……」
男は、遠くから蛭間ホテルを睨んどった。
「あいつらが来なきゃ、こんなことにはならなかった」
隣にいた男が尋ねる。
「どうするんだよ。あの二人に勝てるわけねえぞ」
「本人たちを狙う必要はねえ」
男が、低い声で答える。
「身内を調べろ。あいつらが一番大事にしてるやつを探すんだ」
◇
それから、数日後。
海は学校を終え、一人でホームへ向かっていた。
手には買い物袋を下げとる。
美嘉がお菓子作りに使いたいと言っていたリンゴを買ってきたらしい。
海の少し後ろを、一台の黒いワゴンがゆっくりと走っていた。
人気の少ない道へ入る。
黒いワゴンが速度を上げ、海のすぐ横で停まった。
後部座席の扉が開く。
海が振り返るより早く、伸びてきた腕がその身体をつかんだ。
「きゃっ――!」
海が車内へ引きずり込まれる。
後部座席の扉が閉まり、ワゴンが急発進した。
海は必死に抵抗しながら、片手を前へ伸ばす。
その手元に、淡い青色の召喚陣が浮かんだ。
透明な水が噴き出しかける。
けれど、すぐ隣には運転席がある。
ここで水を放てば、運転手まで巻き込む。
走行中の車が事故を起こせば、自分だけじゃく、周囲を歩く人まで傷つくかもしれない。
ほんの一瞬。
海の術が止まった。
その瞬間、脇腹へ強い衝撃が走る。
海の身体から力が抜けた。
青い召喚陣が、光を失って消える。
黒いワゴンは、海を乗せたまま走り去っていった。
地面へ落ちた買い物袋から、リンゴが一つ転がり出る。
誰もいなくなった夕暮れの道を、ゆっくりと転がっていった。




