世界最強の女神
王宮を物理的に粉砕して婚約破棄を成立させた翌朝。
公爵家の庭園に、とんでもない男が乱入してきました。
大陸最強と謳われる隣国の皇太子、ユリウス殿下です。
彼は昨夜の夜会で、私が鉄格子で騎士団長を瞬殺した現場を目撃し、直談判しにきたみたいです。
「エレナ嬢! 勝負してくれ! 僕は「世界最強」を目指し、あらゆる強者をねじ伏せてきた……だが昨夜の君を見て、闘志が抑えきれなくなったのだ!!」
「……はぁ。朝から元気ですわね。ですがそのような野蛮な−−」
「断るなら、力ずくでそっちの鉄格子を持たせるまでさ!」
ユリウスが凄まじい闘気を放ち、大地を揺るがしながら大剣を振り下ろしてきた。
その威力は、昨日の騎士団長の比ではない。
「……およしなさいと言っていますのにっ!」
カチンときた私は、ユリウスが庭に置いていた鉄格子をガシッと掴み、下から思い切りすくい上げました。
−−ガキィィィィィィィン!!!
鼓膜を破らんばかりの金属音が響き渡る。
ユリウスの大剣と、私の鉄格子が正面から激突しました。
しかし、私の圧倒的な筋力が、彼の世界最強の力を軽く上回ります。
「あっ、えぇっ……!? ぐわぁ――っ!」
ユリウスは自慢の大剣ごと、遥か上空へと弾き飛ばされました。
彼は綺麗な放物線を描きながら、公爵家の屋根にズボっ! と回転しながら突き刺さります。
「ふぅ、無茶な戦いを挑むから、そういう目に遭うのですわ」
ドレスの袖を整え、私がため息をついていると、屋根から服がボロボロのユリウスが降りてきました。
もはやパンツ1枚で大剣もへし折れている……が、その瞳は、信じられないほどギラギラと熱く輝いています。
「……素晴らしいッ!!! なんという至高のパワー、無駄のない筋肉だ……!」
ユリウスはパンツ姿も気にせず、私の前に両手を差し出します。
「負けた! 完全に僕の負けだ! 私は世界最強を目指していたが、今日、本当の『世界最強の女神』に出会えた! エレナ嬢、どうか僕と結婚し、我が国の軍事力を束ねてくれないだろうか!? 君になら、喜んで私のすべてを捧げよう!」
「あら……。私のこのお転婆な力、怖くはございませんの?」
「まさか! むしろこれほどの美しき力を『可愛げがない』と地下牢へ幽閉した前婚約者を疑うよ。 君の力も、すべて私が全身で受け止めてみせる!」
私のすべてを肯定し、かつ全力で受け止めると言い切った彼の器の大きさに、私の胸はドキ……ドキと高鳴ります。
「まあ……。そこまでおっしゃってくださるなら……喜んでお受けいたしますわ」
「ペリンチョ、殿下に服を……」
我が公爵家が誇る有能な執事ペリンチョ。
彼は至って優雅な動作で、手にした純白の高級バスローブをユリウスにそっとかけました。
−−こうして爆速で隣国の皇太子妃へとなったエレナ。
一方、有能な相方を失ったミゼル王子は、膨大な書類仕事の山と、暴飲暴食が祟り、毎日激しい頭痛でのたうち回って失脚するのだが……それはまた、別のお話……。
♢♢♢♢♢♢♢♢
−−2人が夫婦になって初めての庭園デート……
ユリウスが男らしく「これからは夫婦だ。さあ、手を繋ごう」と手を差し出す。
エレナは恥ずかしくて、ユリウスの肩を「ポンっ」と軽く叩いてしまった!
−−ドバァァァァ―ン!!!
彼は綺麗な放物線を描いて、屋根にズボっ!と突き刺さりました。
「ご、ごめんなさい! つい手加減を忘れてしまって」
オロオロと見上げる私の前に、屋根から抜け出したユリウスが、パンツ1枚のままフワリと華麗に着地する。
「ふっ、気にするなエレナ……大丈夫だ。私を天高く打ち上げるほどの愛……世界一可愛いぞ」
「も、もうっ! うるさいですわ、馬鹿!」
鉄格子を引きちぎった令嬢は、いま、自分の規格外のすべてを愛してくれる最強の夫と、どこまでも甘い空気の中……
ペリンチョは音もなくスっと近づき、純白の高級バスローブをユリウスにそっとかけてあげました−−




