後日談
エレナがプロポーズを受け入れ、隣国に嫁いでから数ヶ月後−−
隣国の皇太子妃となった私は、毎日とても充実した日々を送っていた。
……が、我が家には一つだけ、結婚当初から全く変わらない「日課」が存在します。
「エレナ! 今日こそは君に一太刀報い、夫としての威厳を見せる!いざ勝負だ!」
彼は私にプロポーズしたあの日から、世界最強の座を諦めるどころか、「世界最強の妻を超えること」を新たな人生の目標に設定したらしい。
私はため息をつき、お土産に持ってきた例の鉄格子を片手で構えました。
「ユリウス様、朝からお元気ですわね ……でも、本当にやるのですか?」
「当然だ! 男たるもの、愛する妻を守れる強さを得ねばならん!おおおおお!」
ユリウスが地響きを立てて突撃し、渾身の力で大剣を振り下ろす。
私は一歩も動かず、手にした鉄格子をフンッ! と横一閃に薙ぎ払った。
−−ガキィィィィィィン!!!
凄まじい衝撃波。
次の瞬間、ユリウスは弾け飛び、美しい放物線を描きながら屋根に突き刺さりました。
「ふぅ、今日もお疲れ様でしたわ」
ドレスの汚れをパッパッと払っていると、私の背後からスッと音もなく、執事ペリンチョが現れた。
彼は隣国まで、私に付いてきてくれたのだ。
ペリンチョは、手元の小さな手帳にサラサラと何かを書き込んでいる。
「エレナお嬢様、本日もお見事なスイングでございました。……これで殿下との対戦戦績は、めでたく『100勝0敗』の大台に到達いたしました。 記念すべき100回目の完全勝利でございます」
「あら、もうそんなに……よく心が折れませんわね」
「ふふ……勘違いはしないでくれ」
屋根から降りてきたユリウスは、私の目を真っ直ぐ見つめた。
パンツ1枚という、およそ締まらないはずなのに、その眼差しは一国の皇太子としての気高さと、一人の男としての熱い情熱に満ちていた。
「僕はただ強くなりたいから君に挑んでいる訳でない。……他者を圧倒する規格外の強さも……その強すぎるがゆえに誰にも頼れず、一人で抱え込んできた健気さも……君の全てを心から愛しているんだ」
「だからこそ、僕は君のすべてを受け止められる、世界一の男になりたいんだ!」
私のすべてを全肯定するプロポーズ以上の愛の言葉。
生まれて始めて顔がカッと熱くなるのを感じました。
「な、何を急に恥ずかしいことをおっしゃるのですか!」
あまりの気恥ずかしさに、ユリウスの肩をポンっと軽く叩いてしまった。
−−ドバシャァァァァン!!!
「おわぁ!?」
ユリウスは庭の池の真ん中に吹き飛び、大水飛沫をあげて落水した。
「ご、ごめんなさい……ユリウス様。つい手が滑ってしまって」
赤くなった顔を両手で覆いながらオロオロとする私を見て、池から這い上がってきたユリウスは、ずぶ濡れになりながらも、大満足の笑みを浮かべていた。
「ハハッ!いいぞエレナ! 今の照れ具合、胸が高鳴るほど素晴らしい破壊力だ! やはり君は世界一可愛い!」
「も、もう! うるさいですわ、馬鹿!」
顔を真っ赤にしてそっぽを向く私と、今にも落ちそうなパンツ姿で嬉しそうに笑うユリウス。
その様子を微笑ましそうに見ていたペリンチョ。
音もなくスっと近づき、純白の高級バスローブをユリウスにそっとかけてあげました−−
最後までお付き合いいただき、誠にありがとうございました。執事のペリンチョでございます。
鉄格子を引きちぎるお嬢様が、その全てを愛してくれる最高の旦那様と巡り会えたこと……これ以上の喜びはございません。
お2人の新婚生活の報告をここに締めくくりつつ、末永い幸せを心よりお祈り申し上げます。




