騎士団長VS令嬢
華やかな音楽が響く王宮の大夜会。
その中心で、ミゼル王子は浮気相手の令嬢を抱き寄せ、勝ち誇っていました。
「皆の者、聞いてくれ! 悪女エレナは地下牢へぶち込まれた!これより、彼女との婚約破棄を正式に−−」
ドガァァァァァァン!!!
王子の言葉は、会場の分厚い大理石の扉が爆発したような……いや、本当に粉々に爆発した大音響によって遮られた。
カツ……カツ…… ヒールの音が響き、夜会ドレスに身を包んだエレナが煙の中から現れる。
その肩には、へし折られた王宮の鉄格子が特大の棍棒のように担がれていた。
「エ、エレナ!? なぜお前が……というか、その肩にあるものは何だ!?」
「何だ、とは心外ですわね。ミゼル殿下が私を閉じ込めた、地下牢の鉄格子ですわ。 ……あ、ついでに婚約破棄のお話も、今ここでハッキリさせましょう?」
エレナが肩の鉄格子を床に「トントン」と軽く打ち付けた。
それだけで大理石の床に、ヒビがメリメリメリと広がる。
「うわぁ――っ! せ、聖騎士団……! その化け物を捕らえろっ!」
王子の悲鳴に、騎士たちが一斉に襲いかかったが、エレナはため息をついて鉄格子を軽く一振りした。
ヴワァァァァッ!!
凄まじい風圧が発生し、騎士団が一瞬でまとめて壁まで消し飛ばされ、生け花のように壁に綺麗にめり込んでいく。
もちろん騎士団長も真ん中にめり込んでいる。
「キャ―――っ!?」
恐怖のあまり白目を剥く王子。
エレナは目の前まで歩み寄り、鉄格子を頭上へと掲げた。
「ミゼル殿下。私を罵り、婚約を破棄されますの?」
「しないしないっ!……しないよぉ、だからその鉄の塊……下ろしてぇ」
「婚約破棄はしますわっ! 浮気三昧で仕事もできない無能な殿下の背中を追うのは、もうコリゴリですわーっ!!」
エレナは叫ぶと同時に、手にした鉄格子を王子の目の前の床へと全力で叩きつけた。
ズドォォォォォォン!!!
轟音と共に王宮の床が周囲10メートルにわたって完全に陥没した。
王子は崩落した床ごと1階へ、頭から真っ逆さまに落ちていく。
「いやぁ―――っ」
「それでは皆様、長らくお邪魔いたしました。お健やかに」
静まり返る会場の貴族たちに一礼をすると、エレナは王宮を後にした。
◇◇◇◇◇◇◇◇
しかし、エレナはまだ知らなかった。
崩落した床のすぐそばに、一際目を引く大柄な影があったことを……
大陸最強と謳われる隣国の皇太子、ユリウス殿下である。
彼はエレナが破壊した扉と、床に深く突き刺さったままの鉄格子を、羨望の眼差しで見つめていた。
「素晴らしい! あの細い体のどこに、これほど気高きパワーが隠されていたのだ……!?」
「……面白い」
床に突き刺さった王子など気にもせず、最強の皇太子が今、本気で動き出そうとしていた−−




