曲がる鉄格子
「お前のような薄汚い悪女は、そこで一生反省しているがいい!」
バタンっ!!
重々しい音が地下牢に響き渡り、元婚約者ミゼル王子の足音が遠ざかっていきます。
薄暗い王宮の地下牢で、私、公爵令嬢エレナはぽつりと呟いた。
「……は?」
冤罪もいいところですわ。
私が王子の浮気相手である男爵令嬢を階段から突き落とした?
すべて彼女の自作自演です。
あんな華奢な女、私が本気で押したら壁にめり込んでます。
「……というか何ですかあの態度は! せっかく私がこれまで、彼の書類を全部片付け、彼の為に料理を作って差し上げていましたのに……!」
あまりの理不尽さへの怒りが沸点に達する。
我が公爵家は、代々「戦神の力」を引き継ぐ武闘派です。
徹底的に隠してきましたが、私の筋力値は国家最高戦力である聖騎士団長を遥かに上回ります。
ドレスの袖をまくり上げ、私は頑丈な金属製の格子へと歩み寄りました。
大人の男の腕ほどもある太い鉄の棒が並んでいます。
「明日締め切りの書類、まだ半分も終わっていませんのよ? 私がここにいたら、あのクソ馬鹿王子は過労で倒れますわね。……もう知ったことではありませんけれどーっ」
私は両手で2本の鉄格子をガシッと掴みました。
日頃の疲れと怒りを全霊で込めます。
「ふんっ……!!」
メリメリメリ……恐ろしい音が響く。
魔法による硬化付与が施されていたはずの王宮の鉄格子が、ぐにゃりと外側へ曲がっていく。
バキィィィィン!!!
凄まじい金属音が炸裂し、鉄格子が根元からボルトごと引きちぎられた。
「あら、柔らかいですわね。せっかくですし、この鉄格子はお土産に持っていきましょう。あのクソクソクソ馬鹿王子の顔面に叩きつけるのに、ちょうどいい質量ですわね!」
私が両肩に鉄格子を担いで、ぽっかり空いた檻の外へ一歩踏み出した……その時!
「な、何をしてるっ!!」
通路の奥から、異変を察知した監視員が血相を変えて走ってきました。
しかし、私の肩に担がれた無残にひしゃげた鉄格子と、丸腰の私を見て、監視員は動きを止めます。
「エエエ、エレナ様っ!? そ、それ、どうやって……」
面倒なことになりましたわね……
私はふぅ、と静かに息を吐くと、拳を軽く床に向けて突き下ろしました。
ドゴォォォォン!!!
鈍い衝撃音と共に、頑丈な地下牢の床が、3メートルにわたって綺麗に陥没しました。
パラパラと崩れ落ちる床の破片。
私はドレスを上品に整え、にっこりと笑顔を監視員に向けます。
「何か……見ましたか?」
「ひぃ―――っ……!!」
監視員はあまりの恐怖に、白目を剥いてその場にバタリと倒れ、気絶してしまいました。
「話が早くて助かりますわ。お行儀がよくて素敵です」
私はカツカツとヒールの音を響かせながら、今夜の婚約破棄パーティー会場へと地下牢の階段を上り始めました。




