092_妹は現実をねじ曲げたい
「お兄ちゃん、私は思うんですよ」
「どうせろくでもないことなのは分かりきってるが聞こうじゃないか」
妹が思いつきで喋るときはろくでもないことに決まっている。毎度よくまあよほどの暇人でも考えないようなモラルとコンプライアンスをゴミ箱に捨てたようなアイデアを考えるものだ。
「まともな事ですよ! 私は思いついたんです! 私が政治家になれば兄妹での結婚を合法化出来るではないですか!」
ほれみろ、やっぱりしょーもないことだった。自分の支持者が十分いるだろうと思う時点でどうかしてる。出馬なんてしようものなら供託金を没収されて終わるだけに決まってんだろ。
「一応聞いておいてやるが、公約はなんにするつもりだ?」
「もちろん兄妹での結婚を可能に法改正することです!」
「お前さ、人の心が分からないやつだってよく言われないか? 後姉弟だとどうなるんだ?」
「そちらは邪道なので認めません!」
「個人の欲望百パーセントじゃねえか! そんなブレッブレの主張が通ってたまるか!」
完全に全て自分本位という点では確かにブレていないのだが、主張として扱いがいい加減すぎる。そんな物が通る世界がどこにあると思ってるんだよ。
「でも選挙なんて個人が自分の利益になる候補者を選ぶじゃないですか」
「そうだな……で、兄妹での結婚を認めろと主張して一体何人が賛同してくれると思うんだ? 少なくとも経済については何も知らないだろ? お前この前イギリスからの個人輸入で『何ユーロでしたっけ?』と聞いてきただろうが」
イギリスでユーロが使われていると思うのもどうかと思うが、当然のように外貨決済ではなくポンドでの決済だったのにコイツはどこにもないユーロの文字を見たようだ。
「くっ……そんな細かい世界情勢なんていいじゃないですか、どうせ誰もこだわりませんよ」
「大問題だろうが! その発言だけでも敵が出来そうだし、兄妹の結婚と経済政策のどっちを重視する人間が多いと思ってんだよ? まさか世の中の妹全員が兄と結婚したいとでも思ってんのか? だとしたら世界の見え方が俺とは違うんだろうな」
もう少し現実的な考えを持ってほしいもんだ。そもそもさ……
「まず被選挙権がないだろうが……そこはどうする気だ?」
「被選挙権がもらえる年まで主張を頑張ってから満を持して出ればいいじゃないですか?」
「二十は余裕で超えるわけだが、その間に俺は誰かと……」
「ダメですよ、きっちり私に付き合ってもらいますから!」
頼むから俺を巻き込むな、そんな何人が望んでいるか分からない実現の遠いことに俺を巻き込むんじゃない。無謀に決まってんだろうが。なんなら俺もコイツも永遠に結婚出来ないまである、もちろん兄妹以外の誰とも、だ。
「勘弁してくれよ……なあ、せめて細々兄妹で暮らしていく方がよほど現実的なんだが?」
「お兄ちゃんがそれでいいならそれもまた背徳感があってヨシ! そうなることも考えて行動してくださいね、お兄ちゃん?」
俺はため息を一つ返して、当分自由はないだろうなと思い知った。




