091_妹となんでも売っているところ
今日は目が覚めると部屋を出ようとしたのだが、そこでピタリと固まってしまった。幽霊や妖怪の類いだったら排除して終わりなのだが、今部屋の前で聴診器を漬けてグースカ寝ている相手はそうもいかない……
「起きろよ。申し開きは後からしっかり聞いてやる」
そう我が妹に言うと、飛び起きてから部屋に逃げ帰ろうとしたので襟を掴んだ。
「なあ、その聴診器で何をしてたのかな? まさか一人お医者さんごっこをしてたなんて言わないよなあ?」
「これは……ええっと……そうです! 悪いものがいないか調べていたんです。族がお兄ちゃんの部屋に忍び込んでいたら大変ですから!」
随分と苦しい言い訳をする阿地に呆れつつも、聴診器をどうやって手に入れたのか聞いてみた。
「知らないんですか? フリマアプリでは大体何でも売ってるんですよ? 現金まで売っている場所はあそこくらいしか無いですよ!」
「現金はダメになっただろ! 具体的なアプリ名が特定されるような言い方をするな」
「だって皆さん堂々と現代の闇市なんて呼んでますよ」
「お前具体名を出さなきゃセーフとか思ってないだろうな……?」
「まあまあ、落ち着いてください。寝落ちしていた私も悪いですが、私にも倫理観はあるんですよ。電波法を犯すような違法なワイヤレスマイクなんかは設置していませんから」
「倫理観とコンプライアンスは似てるようで別物だからな? そこは間違えるんじゃあないぞ?」
コイツは法律が許せば何をやってもいいと本気で思っているんだろうな。
「始めはお兄ちゃんが不快になるかなと自分の部屋の壁にあてて聞いてたんですが、やっぱりドアの方がお兄ちゃんの声がハッキリ聞こえますから、こっちの方が便利かなあと思いまして……ただ、お兄ちゃんがあくびをしながら勉強なんてするものですから眠くなってしまいまして」
「さも俺のせいのように言ってるが、自分の部屋であくびをしたことを責められるとは思いもしなかったよ……」
ギリギリ盗聴かそうで無いかのラインを責めてくるなあ。平気でやるのはやめて欲しいよ全く。
「しかしお兄ちゃんのセンシティブな声が心の蓄音機に収録出来なかったのは残念ですね。私は居なかったものとしてもう一回部屋に入ってもらえますか?」
「この状態でいなかったことにするのはどう考えても無理があるだろうが! はいはい、自室に戻った戻った」
「やはりダメですか……でも私は諦めません!」
諦めない姿勢を否定する気は無いが、その目標が人のセンシティブな声を録音するのだと思うと、そんな折れない心は捨ててしまえと思わず言いたくなる一件だった。




