090_妹は現実と戦いたい
「お兄ちゃん、私は思うんですよ! 妹と結婚出来ないなんておかしいとね」
「また急な話だな」
いつもの妄言なので一々相手にしていられない。
「だって今って結婚の自由が叫ばれているじゃないですか。結婚は両性の合意に基づくんでしょ? だったら男のお兄ちゃんと女の私が結婚しても何の問題もないと思いませんか」
「やめとけ、少なくともその発言でキレる活動家が思い浮かぶんだ」
「全く面倒な世の中ですねえ、いいじゃないですか、お兄ちゃんと私が結婚しても。よくある都合良く法律が変わったんで認められましたってオチを付ければなんだって許されるんですよ」
「都合良すぎだろ。勝手にそんなおかしな世界にすんなよ」
まったく……少し自由にさせれば危険な話題に突っ込むんだから……もう少し平穏で嵐や風邪の起きない凪のような人生を送ろうとは思わないのか。
「だって、兄妹で結婚出来る設定にしたいじゃないですか、世界の理をねじ曲げることさえ躊躇しませんよ、私は!」
「どう考えても傍迷惑だろうが。別にお前が誰をどう思おうと自由だとは思うけど、俺を巻き込むのはやめろ」
トラブルメーカーにもほどがある。世界相手に戦争も自裁のが我が妹なのだろう。人としてどうかと思うんだがな。
「ほう! つまり私がお兄ちゃんを想うのは自由だってことですね! 言いましたからね! 私はずっと忘れませんよ!」
「……取り消しは……」
「不可です」
ということで阿地は意地でも俺への執着を曲げるつもりはないらしい。意志が強いのは良いことだとは思うんだが、強い意志がねじ曲がったものだとタチが悪くなるな。
「ということで、一緒にお昼にしませんか? 平和に昼食を食べましょうよ」
「分かったよ、変なもん仕込むなよ?」
「狭心症の薬とかを混ぜると……」
「大体どの薬か分かるが、アレは狭心症に使えないからな。知識はちゃんとしておけよ? 後薬機法はちゃんと守れ」
阿地は『しょうがないですねえ』と理不尽なことをしている自覚はあるようだが、さも妥協したように言ってキッチンに向かうので俺もついて行った。
「ねえお兄ちゃん、まあ結婚を諦めるにしても、私の側にはいてくださいよ? それは責めて約束してください」
「……善処するよ」
そう言うと阿地は微笑んでから言う。
「いいですよ、お兄ちゃんは嫌なときはハッキリいやって言いますから。全否定じゃないだけでも私は十分可能性を感じられます」
随分と皮算用をする奴だなあとは思いつつも、本人が納得していて割と妥協したならそれでいいかなと、その程度には思えた。




