089_妹は開けてはいけないものを作ってしまう
「お兄ちゃん、ちょっと聞きたいことがあるんですけど」
「なんだ?」
阿地にしては珍しく普通の調子で質問してきたので俺も普通に堪えようと思い返事をした。真面目な質問には真面目に返すのが俺の主義だ。
「PCのストレージ容量が足りないんですよ。そこで私は考えました! ネットワークストレージを買ってはどうかと!」
「いいんじゃないか?」
はて? 別にネットワークに繋ぐのに何の文句もないし、何故俺に相談などしてくるのだろう? そんな理由があるとは思えないのだが……
「で、容量の相談なんですけど、8Tのストレージを買おうと思っています」
「いいんじゃないか」
何を入れれば8Tも埋めることが出来るのかは不明だが、買いたいなら好きにすればいい。俺の金じゃないんだし、阿地が自分の金で買うモノに文句を付ける気は無い。
「さて、そこで問題なんですが、私のスマホには8Tも埋めるデータがないんですよ。それでお兄ちゃんに相談なんですが、お兄ちゃんも好きに使って何かファイルを入れませんか? PCを使ってるならストレージだって足りないでしょう?」
ううん!? ええっと……俺にも金を出してくれって話かな?
「はぁ……いくらか出してくれってことか?」
「いえ、お兄ちゃんはお金を一円も払うことはありません! ただ、共有ディレクトリにお兄ちゃんのPCに入っている大きな容量のファイルを置きませんかという勧誘ですよ」
「え……!? ななな……何言ってんの?」
「ほらほら、お兄ちゃんのPCにだってものすごく容量を使っているファイルがあるんじゃないですか? 私にも見せてくれるのなら大容量ストレージを自由に使っていいんですよ? ほら、魅力的でしょう」
なんとなく妹の言いたいことは分かる。分かるのだが……
「さーて、何の事かねえ、健全な中学生の俺に隠し立てするほどで買いデータはないんだが……」
「じゃあ私のストレージに全部入れても全くやましいことはないんじゃないでしょうかねえ……おかしいですねえ、どうしてお兄ちゃんはメリットしか無いことを渋るんでしょうか? 自由に使える大容量のファイル置き場が手に入るんだから使わない手はないと思うんですけどねえ……? いやーおかしーですねー」
棒読みでそういう阿地。俺は……俺は……
「要らん。やましいところがなくても人に覗かれるのは気にくわねえんだよ。だから家族で共有するようなファイルはない」
きっぱり言い切った。ロクなものを持っていない身としては隠す一択である。ネットの海は広大だからな。
「むぅ……お兄ちゃんは強情ですね……まあいいでしょう、お兄ちゃんがそこまで言うなら私が自分で買いましょう」
そう言って阿地は家を出ていき、近所の量販店に行ったのだろう。ネットワークストレージをマジで買って帰ってきた。それから俺の部屋に入ってルータに繋いで出て行った。
騒がしいヤツだなと思いながら設定くらいどうにかするだろと思い放置した。さて、問題なのだが……
「なんで覗けるんだよ……」
妹の買ってきたストレージは家庭内のどこからでも見えるように設定されていた。なんでこんな設定なんだ……アイツだって詳しくないわけじゃ……
そこで魔が差してそのストレージにアクセスしてしまった。パスワードも何も無く入ることが出来て……その中には……なんというか……ピンク色のファイルが入っていて、妹の名前になっているファイルがあった。テキストファイルだったので興味本位で開くと「いつでもどうぞ」とだけ書かれていた。
俺はそっとそのストレージは見ないことに決めた。この先どんな進化をするか分からない場所だが、覗かなければ存在していないも同然だ。これはパンドラの箱としてそっと封印しておこう。
こうして俺は妹の闇の部分をそっと見えない部分に閉じ込めて忘れることにした。世の中に走らない方が良いことがあるんだなあと心底思わされた日だった。




