088_妹は婉曲的に言えばいいと思っている
「お兄ちゃん、月が綺麗ですねえ……」
「そうだな」
ちなみに現在昼間、そらにはたまたま白く見える月が浮かんでいる。綺麗かどうかは知らん。
「だから、お兄ちゃん、月が綺麗なんですって!」
「なんだよ、月が出てたらデカいビームでも撃てんの?」
「そのネタ十代が知ってるわけ無いでしょうが! 月が綺麗ですねの意味を……」
「くだらない古文に付き合う気は無い。月が綺麗だと言ったら月が綺麗なだけだとしか思わん」
「お兄ちゃん……古文に付き合う気は無い。と言いつつ平成のネタを持ち出すのはどうかと思うんですが?」
ぐぬぬ……ああ言えばこう言うヤツだな。
「そもそもなんでそんな回りくどい話し方を覚えたんだ?」
「ふっふっふ……」
妹が悪い笑みを浮かべる、あ、これ絶対どうでもいいヤツだ。
「このご時世、妹モノは何かと冷遇されています! そこで私は考えました! 要するに直接恋愛をしてそれ以上に進んだと書いたらアウトなんです! そのための文学! 匂わせなら他の人が勝手に想像しただけだからセーフ! これなら全世界に公開しても宗教的にも問題がない健全な話になります!」
「宗教界隈を敵に回すのはやめい、あの辺敵に回すとマジで怖いんだから、いくらお前が怖いもの知らずでもどう考えても危ないだけの連中を敵に回すな」
「大丈夫ですよ、『小さな丘が二つ並んでいる』という文字を読んでスケベな想像をするのは読む人がスケベだから想像するだけで、これが禁止されたら丘が二つ並んでいるだけの風景を書いただけでキレるヤベー人がいるって事になるだけじゃ無いですか?」
「分かってて言ってるよなあ!? 直接言わなきゃセーフだと本気で言ってるのかな? 相手が勝手に言ってるだけって言い訳が通じない連中がいるのを忘れるんじゃないよ!」
「お兄ちゃん……私が言うのもなんですが、宗教に偏見を持ちすぎじゃないですか? いくら原理主義の人でも極東のサーバにある駄文にキレてきたりしませんって。過激派だって暇人って訳じゃないんですよ」
「ふぅ……少しヒートアップしたかな……それはともかく、過激派以外にもキレる奴はいるからそれなりに自制しろよ。昨今文字列に本気でブチ切れるヤツがいるので公序良俗を守らないとうるさいんだよ」
「でもそういった人って公序良俗の範囲を無制限に広げてきませんか? 自分の攻撃範囲を無制限に広げる相手なら懐に飛び込んでも攻撃を受けるのは変わらないのでは?」
「本当に敵を作るのが得意だな……お前、人間関係の潤滑油だと思って使ったらよく引火するタイプだと思うよ」
多分俺の妹は就活で潤滑油に自分を例えてから、実際にその役目を期待したらツルツル滑った後に少しの火花で機械ごと消し飛ばすタイプだ。
「じゃあどんな表現でお兄ちゃんに愛情を伝えれば良いんですか?」
「そうだな……俺は阿地のことを面白い妹として好きだよ……この言葉を基準にしておけ」
「ほう……私はお兄ちゃんを愛情の対象として好きですよ。このくらいならセーフですか?」
「うーん……ギリセーフで。でもマジで加減はしろよ?」
「はーい」
ふぅ。何とか話が無事に落ち着いたようだ。危ない事なんて早々してほしくないんだよ。何かと物騒なご時世なので気をつけてほしいもんだよまったく。
そうして無事話は着地したのだった。




