086_妹は刺激を所望している
今日はのんびり過ごすことが出来た。現在は妹との夕食中だ。平和すぎて怖いくらいだ。
「お兄ちゃん! 今日は退屈でしたねえ、体が刺激を求めたりしていませんか?」
「いや全く、平和で良かったし、そのまま眠れないかなって思ってるよ」
「はー……ぁ……お兄ちゃんは平和主義の事なかれ主義ですね。もっと刺激を求めましょうよ。人生にはもっとスペクタクルが必要だと思うんですよね。もっと派手に激動の人生を私は求めているんですよ!」
そんなもの求めたってこの平和なご時世にドラマティックなことなんて無いだろうに……一体何をやればスペクタクルが日常に入ってくるんだよ。あえて言うなら学校の試験で良い成績が取れるかどうかくらいだろう。平和なことは良いことだと思うので俺はそんなスリルは必要無いと思う。
「もっとのんびり生きていこうぜ。細かいことにこだわっても楽しいわけじゃないだろ? 世の中いやでも刺激のある人生を送っている人も居るんだから、退屈な人生を生きられるのは現代じゃ特権みたいなモノだろ」
細かいことを大いに騒ぐが、細かいことを大騒ぎ出来るのが平和な証拠だ。物騒な世の中になっていれば細かい事なんて誰も関心を持たないだろう。平穏の何が悪いって言うんだろうな?
「お兄ちゃん、ここはやはりセンシティブな表現をするべきではないでしょうか?」
「お前横文字を使えばセーフって思ってないか? それとそんなことをして誰が得をするんだよ」
「私が嬉しいじゃないですか、私と皆さんが求めている展開! 素晴らしいことだと思いませんか?」
「直接的な表現をも止める人が居るのは否定しないが、今回の主張はお前の欲望百パーセントだろうが……」
「細かいことを! 私は私が良ければそれでいいという考えですが何か? 私はお兄ちゃんをきちんと幸せにしますから、欲望のまま動いてもお兄ちゃんに損はさせませんよ?」
「ここまで信用出来ない言葉も滅多にないな、本気でそれが通じると思ってるなら少しは常識ってものを学んでくれ……」
「良いですかお兄ちゃん、常識に縛られた人生なんてつまんないでしょう? ちょっとしたモラルから逸脱した行為は人生に彩りを与えてくれるんですよ!」
すごいことを言った風な感じを出しているが、内容は要するに人は欲望のままに生きるべきだというシンプルなものだ。それでいいと思っているのだろうか? 人の世界にルールがある理由を考えたことが亡いんじゃ無いかと疑いたくもなる。
「法治国家には無意味に誰かを捕まえるために法律があるわけじゃないし、そもそもモラルを外れた行為を望んでいるから取り締まりがされるわけじゃ無いんだよ。そう言うのがなけりゃそれにこしたことがないって分かってくれないかなあ……」
病院は病気を望んでいないし、消防は家事を望んでいるわけではない。無ければない方が良いに決まっていることがあると理解出来ないのだろうか?
「言うじゃないですか、『常識を疑え』ってね」
「絶対そういう意味じゃないと思うんだがな……本当にそれでいいと思ってんのかね」
「私はルールなんかに縛られる妹では無いんですよ!」
ドヤ顔で言う妹に説得の通じない相手って居るんだなと理解してしまった。その相手が妹だったことは非常に悲しく思う。それでもきっと常識を教えるのが俺の役目なんじゃ亡いかと思う。先は長い……いや、一生かかって教えられるか分からないが、俺は妹を人の道から外れないように面倒を見ていこうと改めて決心した。




