085_妹への失言から始まる話
「お兄ちゃん! 朝ですよー!!」
朝、そう、今は朝に違いない、問題はまだ太陽が出ていないことだろうか? 心底早朝というモノの条件に朝日が出ていることを条件にしていなかった国語を考えた連中を恨みたい。思えば昨日の夕食後に『お兄ちゃん、明日の朝、暇なのでゲームでもしませんか?』という妹の問いかけに安易に頷いて自分が悪い。
悪いのは俺だけどさあ、まだ四時だってのにドアの前でモーニングコールをされるなんて思わないじゃん? 言葉の定義は明確にしておかないとならないなあと心底思う。いい加減に数字ではなく感覚で決めたせいでこんな事になってしまった。
ぼやける頭をシャッキリさせながらスウェットのまま部屋を出る。途端に阿地が飛びついてきた。確かに今日は休みだけれど、そこまで自由に時間を使わないで欲しい、コイツは時止めの能力があって一日に二十四時間以上活動ができるのでは内かと思うほど元気だった。
「おはよう……出来れば次からは俺が起きてきてから遊びに誘ってくれないかな……」
「はーい、次はきちんとお兄ちゃんが起きられるように支度しておきますね!」
まるで分かってない! 俺が起きるまで待てと言ったら、起きてりゃセーフという発想になるのかよ!? もうこの妹怖いんですけど!?
「分かったよ、議論をしてもキリがないと分かった。とりあえず朝のコーヒーでも飲もうか。阿地も飲むだろ?」
「お兄ちゃんのコーヒーですよね? 是非お願いします!」
どうも俺がいれたコーヒーであるということに意味があるのだというのが阿地の主張だ。別に使うのがその辺のスーパーで売っているインスタントでも関係がないらしい。データそのものよりもメタデータをありがたがる妹の考えを改めさせるかは考えどころだなと思う。
それを考えるのは今でもない気がするのでキッチンに行って二つのマグにいつも通りコーヒーをいれた。電気ポットと言う文明の利器がありがたく思う。妹と二人のキッチンでお湯をやかんで沸かすことになったら間が持たないのは必至だ。その辺時短が出来れば持たせる必要のある間が少なくて済む。おかげで貧困な語彙力が判明しないのはありがたいことだ。
「砂糖とミルクはいつも通りだよな?」
分かりきったことだが沈黙も食う気が良いとは言えないので一応聞いておく。
「うーん……せっかくのお兄ちゃんとの朝食ですし、お兄ちゃんに合わせてブラックにしてください」
大丈夫かよとは思いながらもコーヒーだけをいれてお湯を注ぐ。香りはフワッと広がるのだが、これを本当にあの阿地が飲めるのだろうか?
「ほら、コーヒーだよ」
阿地の前にマグカップを置くと、小動物のように香りを嗅いでからコーヒーに少し口をつけて……と言うか舐めているようなことをしていた。
それで少し味わってから渋い顔をしつつも、ボチボチ飲んでいった。ミルクも砂糖も後から追加出来るのになんて無粋なことは言わない。美味しいならそれでいいのだが、阿地にとっては『一緒の』コーヒーに価値を感じているのだろう。
「ところでゲームをしようと言っていたが何をするんだ? まだあのゲーム機の新型は発売前だろ?」
有名ゲーム機の発売前にもうすぐ型落ちになるゲームを楽しもうとでも言うのだろうか?
「はい、アナログゲームにしようと思います! さて、ここにツイスターゲームというものがあるんですが……」
「考えが古い! まさかこのご時世にツイスターゲームを真顔で取り出す妹がいるとは思わなかったよ!」
「お兄ちゃんは温故知新という言葉をご存じないんですか? 案外昔のゲームだって捨てたもんじゃないでしょう? スキンシップ的な意味でね」
自慢気にそう言う阿地に、俺は残酷な一言を告げなければならない。
「ツイスターゲームって複数人が手と足を着くのと、どの手足をどこに動かすか決める係がいるんだが、お前は一人でマット運動をするつもりか?」
「え? そんなゲームなんですか!? 私のネット知識では男女の距離が縮まるドスケベゲームだと書いてあったんですが……?」
「知識が偏ってる! そんな偏った知識どこで覚えるんだよ!?」
こうして阿地の野望は潰えた……ただ、本人は俺が理論の破綻を突いたときに『次はきちんと下調べが必要ですね……』と言っていたので少なくとも諦めてはいないようだ。まあ……本人がいいなら良いんじゃないかな?
俺は未来の自分に丸投げして朝食を食べていった。ネットには偏った知識が埋まっているので気をつけようなと妹を見て再び思うのだった。




