078_妹の買ってきた製品
今日は昼食にご飯に卵をかけたシンプルな食事をしている。妹がちょっと用事があるからと出て行ったので普段は露骨に嫌な顔をされる手抜き食事だって許される、これが自由だ。
卵を湯気の立つご飯に落として醤油を垂らしてかき混ぜる。たったこれだけのことでどうして美味しい料理ができるのかは分からないが、至福の一時だ。
ズルズル……ごくん
秒で卵かけご飯を飲み干した。実にいい、阿地がいたら絶対白い目が見られる食べ方だ。たまにはこのくらい豪快な食事をしたっていいだろう。
「お兄ちゃん! 良いものを買ってきました!」
危ない危ない……ギリギリで食べ終わったところで妹が帰ってきた。文句を言われる寸前に食べ終わったのでセーフだった。
「何を買ってきたんだ?」
そっと流しに茶碗を置いて水道で卵を落とす。食器を洗ってしまえば何を食べていたかは分からないだろう、証拠隠滅は完了だ。
「はい! これです!」
そう言ってさしだしてきたのは見慣れたモノだった。どこからどう見てもイヤホンだ、それもケーブル付の古式ゆかしいイヤホンでしかない。珍しさなんて欠片もない。
「何が良いものなんだ? 普通のイヤホンにしか見えないんだが……」
そう言うと、分かってないですねという顔をした阿地が手招きしてきた。なんだろうと思って近寄ると耳にイヤホンをはめられた。
自分の耳にもイヤホンをつけ、オーディオプレーヤーで音楽を再生しはじめた。
「ふっふっふ……このイヤホンはケーブルがこうやってつけるのにちょうどいい長さなんですよ」
近距離でドヤ顔をする妹にわざわざこれがやりたいためだけにプレーヤーまで買ってきたのかと思うと執念が少し怖くなる。お金があったのだろうが、にしてもこのためだけに買うヤツは普通いないだろう。
ちなみに耳から流し込まれているのは某妹アニメのOPだ。どこまでも妹押しで来るのがある意味清々しいヤツだと思う。
「なあ阿地、こんな事を言うべきじゃないとは思うんだが……」
「なんですか? 兄妹でイヤホンを共有するのがそんなに嫌なんですか?」
「いや、俺はもうちょい音量のいいイヤホンを持ってるぞ。これ、安いヤツだろう?」
「お兄ちゃん、分かってない、分かってないですよ」
ちっちっちと指を振ってみせる阿地、それに続いて言う。
「お兄ちゃんは私が音質にこだわってイヤホンを選んだと思うんですか? お兄ちゃんと密着する体のいいい理由のためにイヤホンを買ってきたに決まっているでしょう! イヤホンもプレーヤーもジャンク品ですよ、音質なんてどうでもいいことにこだわるはずないでしょう?」
オーディオマニアに真っ向から喧嘩を売るような発言をする阿地。その言葉は敵が増えるのであまり言わない方がいいぞ。
そんなわけで昼間はしばし妹と密着して過ごすことになった。アルバムCD一枚がここまで長いものだと感じたのは初めてだった。音質は良くないというのに音楽をここまで気にしたのは初めてで、実に皮肉なことだなと思った




