008_夜半より明け方まで
朝の日差しが差し込んでくる部屋で、朝早くから一杯のコーヒーを……「クソがッ! なんで私がキャリーしてんですか」とやかましい声が隣から聞こえてくる。キャリーというのはおそらく実力のあるプレイヤーが初心者を保護しながらチーム戦で勝つことだ。
せめてもの救いは我が妹がボイスチャットをちゃんと存在しないゲームを選んでいることだろうか。本当にボイチャありだと大炎上しそうな声が聞こえてくる。なんなら書けないような罵声さえも聞こえてくるのだから救えない。
あまり考えると頭痛がしてきそうなのでそっとヘッドホンを付けて音楽をかける。心地良い音楽が耳に流れ込んで『何やってんですか! トドメ刺さずにいくんじゃねーですよ!』うん、やっぱりうるさいな。
しゃーない、ヘッドホンは置いてキッチンに行こう。あそこまでいけば隣の部屋よりは聞こえないだろう。
部屋を出て、おそらく徹夜であろう、FPSをプレイしているらしきコンピュータ製の銃声を聞きながらキッチンに向かった。
コーヒーをスプーン数杯入れてお湯を注ぐ。すぐに溶けて美味しいコーヒーの完成だ。もちろんどこぞのグルメ親父が見たらテーブルごとひっくり返しそうだが、朝の一杯に一々手動で見るなんぞ回せるわけもなく、こんなもので十分だと思う。
良い香りがするコーヒーに、眠気覚ましに砂糖をまとめて突っ込んでゴクリと飲み込む。すぐにカフェインと当分が体に回ってくる気がした。
「あ、お兄ちゃんも寝てないんですか?」
そんな声が聞こえたので振り向くと、阿地が目の下に隈を作って俺にそう言っていた。俺は無言で窓を指さす、そちらからは朝の光が差し込んできていた。
「あ、朝でしたか……お兄ちゃんとの暑い夜を送るつもりが有象無象の味方と戦ってしまいました……クッ……こんなはずでは……」
とりあえず俺との暑い夜を送る予定だったらしいのでFPSに感謝しておこう。それはそれとしてだ……
「味方に罵声を吐くのはあまり感心しないな」
「お兄ちゃん、聞いて……もしかして盗聴器が……」
「無い無い、あんな大声で罵声を上げておいて隣の部屋に聞こえないとでも思ってたか?」
陰謀論に走る前に妹を止めておくのは兄の義務だ。コイツは変な自意識過剰なので困るんだよな。
「そんな私の声が響いてましたか」
「それはとっても、しかも大声になるのが汚い言葉ばかりだから本性丸出しだったぞ」
「違うんです! アレはちょっと無能すぎる味方がいましてですね……チーム戦なのでついヒートアップしてしまっただけなんです」
「はいはい、今更驚かないから気をつけような。ほら、コーヒーでも飲んで落ち着け」
俺は阿地にマグカップを差し出してコーヒーを勧めた。砂糖もミルクもたっぷりなので熱くなった頭にはちょうどいいだろう。
コクコク飲んで落ち着いたのか、阿地はソファの前のテーブルにマグカップを置いてソファの上で横になっていた。世話の焼ける妹だなと思いながら俺は残りのコーヒーを飲み干して、これがいつも通りの日常かと一人思うばかりだった。




