067_妹は写真が撮りたい
「お兄ちゃん、ちょっと写真を取らせて貰えますか」
「なんだよ急に……」
そう言って振り向いたのだが、阿地は手に一眼を持っていた。てっきりスマホで撮るのかと思っていたので驚きを隠せなかった。コイツカメラガチ勢ではないと思っていたのだが、急に写真に目覚めたのだろうか?
「いやあ、せっかくいい感じの可愛いカメラを買ったのでお兄ちゃんを記念すべき一枚目にしたいなって思いまして」
「何で俺なんだよ、食事風景でも撮ればいいだろ?」
「食事はお兄ちゃんと違って編集してて楽しくないですから。お兄ちゃんの写真なら好きなように意地って私との写真を作り出せるじゃないですか」
「さらっと人の肖像権を無視しつつコラを作る宣言をするんじゃない」
何考えてんだ、俺はフリー素材じゃないんだが、平気でそんなことをすると宣言するのは正直怖いぞ。
「いえいえ、私とお兄ちゃんの写真を使ってあんな写真やなんかを作ってニマニマするだけですから問題ありません」
「どこが問題無いのかさっぱり分からないんだが……技術の進歩をくだらないことに使うのはやめろよ」
いくら写真のレタッチソフトが発展しているからって、その技術を捏造に使うのは無駄が過ぎると思うんだが、金と暇が余った石油王がやるならともかく、阿地はそんなものではないだろう。
「いやいや、大丈夫ですよ、ネットにアップロードするようなもったいないことはしませんから。私とお兄ちゃんの妄想を具現化してそれを見て楽しむだけですよ」
どこが大丈夫なのかさっぱり分かんないのだが、お前本当に大丈夫だと思ってるのか?
カシャッ
そんなことを思っているとカメラのシャッター音がした。嫌も応もなく写真を撮られてしまった。
「まあ私の手にかかればお兄ちゃんの写真が一枚撮れればそこから自由自在に望む写真を作れるんですけどね」
つまりはもうておくれだといいたいらしい。
「捏造するのはやめてくれないか? 漏れたらマズい写真を作る気だろう? それをされると困るんだよ。一応俺らだって十八歳以下なんだから、そんな自由はないんだよ」
「安心してください、コンプライアンスの鬼とも言える私が責任を持って管理しますから!」
どの辺がコンプライアンスなんだ、むしろその概念と真っ向から矛盾しているのが妹のお前だろと言いたくて仕方ない。
「わかった、今撮った一枚だけで我慢してくれよ……寝ているところをこっそり撮られても困る」
「はい! 一枚あればそこからどんな写真も撮れるのが私ですから! 写真改変の魔術師と呼んでくれてもいいんですよ?」
「魔術師って……ペテン師の間違いじゃないか?」
「細かいこたあいいんですよ、お兄ちゃんとの妄想が実態に出来ると思えばやる気は無限に溢れますから」
そう言って堂々とカメラを持ったまま部屋に戻っていった。もう何を言っても無駄だろうと思い、そのまま見送って全てを諦めた。
その晩のこと、寝ようとしているときに隣の部屋からウイーンカシャというプリンターが動く音が響き続けてうるささと何が印刷されているかの不安とでロクに眠れなかったのだった。




