066_妹と料理と隠し味
今日の夕食は阿地の担当なので俺は部屋でゆっくり待っている。前にアイツが料理している姿を眺めていたら、恥ずかしいから部屋に居てくださいといわれてしまった。
その時は調理している姿のどこが恥ずかしいのかと疑問だったが、アイツが精力剤をカレーに一本淹れているのを見てしまって以来、つよく危ないことはやめろと言っておいたので問題無いはずだ。恥ずかしいのは調理している姿ではなく『隠し味』を入れている姿だろうがト呆れてしまったものだ。
もっとも、阿地はなんだかんだ言って料理が美味いのは確かだ。多分発覚以前にも混ぜ物が遭ったように思っているが、料理の味に違和感を抱いたことはない。理由は混ぜ物を誤魔化すためとはいえ、それに対して心血を注げるくらいなのだから料理は美味しい。
そろそろ出来ただろうという頃にキッチンに向かった。テーブルの上にはサラダとお吸い物、あと焼き魚があった。ご飯だってしっかり用意してある。どうやっているかは知らないが、阿地のヤツには新米を確保するルートがあるらしい。前にどこから手に入れているのか聞いたが『企業秘密です』とすげなく断られてしまった。
「お兄ちゃん、食べましょうか」
「そうだな」
理屈の方は後回しにして食事をすることにした。米と魚の相性は非常に良い、美味く焼いたものだと思うし、しっかり骨まで取ってある。一度『もう少し手を抜いてもいいんだぞ?』と言ったのだが、『お兄ちゃんに完食して貰うのに良さそうなものを探っているだけなので気にしないでください』と言われてしまった。
何が目的であれ料理に罪は無い。むしろ美味しいのだから何も言う気もないのだが、こうして食卓に二人で着くのは非常に心地いい時間だった。外の夕暮れ過ぎ、暗く鳴り始めた時間に二人で食べる夕食は絶品だ。
「美味しいですか? 全部食べられそうですか?」
そんなことを聞くものだから『当然、全部食べられるに決まってるだろ、美味しいよ』というとだらしなく笑っていた。平和な時間なのだが阿地はしっかりスマホを出して操作している。以前食事中に何をやっているんだと尋ねたところ、俺の好みを記録しているのだそうだ。
メニューやら何やらを記録しているらしいが、それにしては時間がかかるなと思う。ただ、世の中には触れない方が良いことだってある。多分これはその一つだろう。阿地のスマホは覗かない方がいいとしっかり自分に言い聞かせている。前にちらっと見えたときにはホーム画面の背景が俺の写真だったので恥ずかしいからやめてくれと言ったのだが『私的利用の範囲です』と拒否されてしまった。
諦めて妹のスマホを出来るだけ目に入れないことに決めてみなかったことにしている。今もあのままなのかもしれないが、ハッキリ確認しなければ分からないことだ。中にトラップが入っていると分かっている宝箱を開けるヤツはいない。触らぬ神に祟りなしとはよく言ったものだ。
「ところでお兄ちゃん、お吸い物の方はどうでしょう? 好みですか?」
「ああ、いい感じに味付けがしてあるな」
そう言うと、阿地が真っ赤な顔をして『そうですか、フヒヒ』と笑っていた。多分何か入ってるんだろう。知らない方が良いに決まっている。何も知らなければ美味しいお吸い物なのだからやぶ蛇をすることはない。
阿地が害のあるものだけは入れないという妙な信頼感があるからこそ、多少の怪しさは気にしていない。しっかり火が通ったものなのだろうからグチグチ言うべきではないというのが俺の考えだ。
「お兄ちゃんが食べてくれる姿は良いですねえ」
「飯食ってんだから写真を取るな……」
料理の写真をSNSに上げるなとは言わないが、俺の食事風景を撮るなと言いたい。面白いもんでもないだろうに。
そうして平和な食事が終わると、阿地は食器を片付けてくれた。食器洗いくらいすると言ったのだが、そう言うとキッチンの方を見て青い顔をしたので何か見られたくないものがあるのだろうと察してしまった。せめて薬機法に違反しない程度のコンプライアンスがあるといいなと願いながらその日の食事は終わるのだった。




