063_妹と手料理と好みと
「ねえ、お兄ちゃん。今日の食事当番は私なのでご希望ありますか?」
阿地がそんなことを聞いてきた。別に俺は妹の手料理なら大体何でも食べられるからな。
「安心して作るといいよ、なんだって美味しく食べてやる」
「お兄ちゃんがそう言っちゃうと鰻のゼリー寄せでも美味しく食べそうだから困るんですよ……」
そんなことを言っているが、俺は妹が作ったならシュールストレミングだって美味しく食べる自信があるぞ。そのくらいの覚悟が無くて兄が務まるかっての。
しかし俺の好みを聞かれているのだから答えておくか。
「そうだな、目玉焼きが食べたいかな」
目玉焼きなら無難に作れる。自分で作れもしないものを妹に求めたりはしない。このくらいで食事としては十分だ。
「そうですか、早速買い出しに行ってきますね!」
そう言って妹は財布を持って家を出ていった。無難な料理なので多分大丈夫だろう。俺は目玉焼きの黄身に火が通っていようが半熟だろうが、細かいことは気にしない主義だ。
久しぶりに一人の時間を過ごしたのだが、一人というのがここまで暇だとは思わなかった。なんだかマンガを読んでもスマホを見ても色あせているような気がする。
そんなことをぼんやりしていると阿地が案外早く帰ってきた。手には買い物袋があるのだが、透けて見えるその中に色つきのパックに入った高級卵が見える。あんまり拘りはないのだけれど、阿地からすると俺の好みが分からないからだろうか、高いやつを買ってきたようだ。
「じゃあお兄ちゃん、晩ご飯はベーコンエッグですよ!」
そう言ってエプロンをして料理を始める阿地をのんびり眺めていた。
ジジジと心地いい音が聞こえるので結構なことだと思う。阿地が作ったものに文句を言う気も無いのだが、向こうはそれが分かっていてもこだわりたいようだ。
卵を割り入れる音を聞きながら本を読んでいると、割とすぐに阿地が『出来ました!』と宣言した。俺はテーブルにつくと阿地と俺の二人の夕食が始まった。
「お兄ちゃん、美味しいですか?」
「ああ、とっても」
そう答えるとニコニコしながら自分の分も食べている阿地。嬉しそうな妹の顔を見るのは非常に気分がいい。自分で作った料理より五割増しくらいは美味しいような気がする。
料理は誰と食べるかが大事だって事がよく分かる。ごく普通のベーコンエッグでも妹と食べれば烏骨鶏の卵を使っているようにさえ思える。
「ねえお兄ちゃん、私から離れなければずっと美味しい料理が食べられますよ? 魅力的ですよね?」
そんなことを言うので、俺は阿地に笑顔で『ああ、わるくない。でも時間は有限だからな、阿地を縛り付ける気は無いよ』と答えておいた。
「お兄ちゃんはいつもそんな事を……まあそれでこそ私のお兄ちゃんですかね」
何やら一人で納得しているようなので細かいことを言うのはやめておこう。阿地がなんだかよく分からないがいい感じに笑顔になっているので、わざわざそれを崩してせっかくの料理を台なしにする気は無い。
俺は阿地の笑顔を見ながらのんびりとその日も食事を進めていったのだった。




