032_妹と朝一番
ある朝、目が覚めると妹が俺の手を持っていた。一見すると心配で俺の手を握っているように見えなくもない、問題はコイツの手に俺のスマホが握られていることだ、もちろん生体認証に指紋を使っている。
「なあ……何をしようとしてたのかな?」
「ええっと……記念撮影?」
なんで自分でも疑問形なんだよ。しかもそれだと俺のスマホで記念撮影をしようととしていたことになるぞ? しかも俺のスマホはきちんとロックをかけているし、言い訳としては余りに苦しい。
「俺のスマホのロックを解除しようとした件に言い訳はあるか?」
「あ! ああほら! お兄ちゃんもお年頃なので不穏な写真や動画が入っていないか気になりまして……」
「それは全く勝手にロック解除しようとした言い訳になってないぞ?」
「うるさいですね! お兄ちゃんのプライベートを覗きたかったんですよ! どうです? 立派な理由でしょう?」
次からスマホは生体認証を無効化しておこうかななんて思ってしまった。やってることは単純だが、結構な正しさのハッキングなので質が悪い。
面倒くさいけどロック解除はそれなりに長い数に設定しておこうか……
「分かったよ、もうそれでいいからスマホを渡せ。後記念撮影にしたって上に乗る必要は無いだろ?」
「いや、お兄ちゃんのスマホに妹が馬乗りになっている写真があれば意味深だと思いませんか?」
最悪の理由だった。それからしばし、写真を撮ったら学校でその存在をバラして俺の立場を無くしてしまうつもりだったとペラペラ話してくれた。語るに落ちるどころか立て板に水状態だった。
「そんなことして俺を社会的に抹殺して楽しいか?」
嫌そうな顔でそう訊ねると、阿地は良い笑顔をして言う。
「大丈夫です、村八分にされたときに、残り二分を私が独占できると考えれば分かりませんか? 私とお兄ちゃんの間の邪魔者たちが勝手に消えていくんですよ」
曇り無き眼で酷く残酷な理論を展開する阿地。もう付き合いきれないので妹の腕をすり抜けてベッドから降りた。
俺はクラスメイトがそんな写真を残しているとしても何も変わらない、そう信じている。
「はぁ……お兄ちゃんが私だけのものになるチャンスだったんですがね、次から事前にお兄ちゃんが目を覚まさないように対策をしなければなりませんね……」
まず寝込みを襲うという発想を何とかして欲しいのだが、そちらは一切妥協する気がないようだ。自分がダメージを受けても相手を引き寄せたいと思う人間ほど質の悪いものは居ないなと思う。
「はいはい、お話はよーく分かったので部屋に帰れ、俺は着替えるから」
「はぁい……」
そうして妹には部屋に帰ってもらった。油断もすきもありゃしないと思うと同時に、目覚めたときの柔らかい感触が忘れられなかったのは生理現象だと思いたいものだ。




