030_妹と外食
「お兄ちゃん! 黙ってこれを受け取ってくれませんか!」
そう言って唐突に休日の昼間、阿地は俺に頭を下げていた。受け取るってなんだろう? 何かやらかしでもしたのだろうか?
怪訝に思いつつも妹の差し出してきた封筒を開けた。中身には日本銀行券に五桁の印刷がしてあるものだった、それも数枚……
「なあ、何かやったんなら許してやるからさ、この金額は受け取れないよ」
まさか妹に結構な金額のお金をもらうわけにもいかない。別に何があったというわけでも無いので受け取るには抵抗があるどころではない。それに何より妹がこんな事をするときは大抵何かあったときだ。話を聞くのが先というものだろう。
「いえ、実はですね……友人とメッセージのやりとりをしていましたら……私のお兄ちゃんは最近出来たあのお高いレストランにも連れてってくれるんですよ! と言ってしまいまして……このお金であのレストランに私を連れて行ってくれないかなと……」
あのレストランという時点で大体どこのことか分かった。そこそこ有名な料理人らしいが、とても中学生が行くような所では無いという雰囲気が店の外観柄も漂っていた。コイツはそこに俺が連れて行ってくれると言ったのか……ビッグマウスも程々にして欲しい、俺が巻き込まれるならだが。
「分かったよ、その金額で足が出たりはしないんだな?」
俺の方も余裕が有るわけではないので阿地に確認をとる。
「大丈夫です! 下調べしたところによるときちんとお釣りが出るだけのお札になりますから」
そもそも俺を巻き込まなければ良いのにと思うが、そこは見栄などいろいろあるのだろう。
「分かったよ、一回だけだかんな」
俺が封筒を受け取ると阿地は嬉しそうな顔をして、翌日の予約を取っておくと言っていた。そう言えば高級な店には予約が必要なんだっけ、その辺で食べるのを済ませている俺にはいまいち想像がつかない。
それから翌日
「じゃ、行くか」
「はい!」
二人でその店へ歩きだしたのだが、一つの疑問を尋ねた。
「なあ、阿地はともかく、俺はスラックスにシャツを着ただけだぞ? そういうところってドレスコードとか有るんじゃないか?」
「ああ、予約の時に聞きましたが、気軽に着てもらえるように厳しくはしていないそうです」
そうして言われるがままに目的のレストランに着いた。そこには来客予定として俺と阿地の名前が書いてあった。名前を言うと廊下の先へ案内された。
「なあ……落ち着かないんだが?」
給仕さんが部屋から離れてから阿地に言ったのだが、本人は意気揚々と俺の手が映り込む範囲をフレームに収めて写真を撮っている。そこまでして見栄を張らなくてもいいのに。そう思うのは俺が映える写真というものに興味がないからだろうか?
さてそこからよく分からない高尚な料理がコースで出てきたわけだが、特に言うことは無い。正直どこがどういう風にすごいのか説明が出来ない、高そうであるという一目見て分かる感想は答えられても、何がどうして高いのかはさっぱりだ。
阿地の方は阿地の方で、俺の体の一部が映り込むようにしてスマホを使って撮影している。料理を作ってくれる人に失礼じゃ無いかと思うほどだ。
そうしてそのまま味のよく分からない俺の舌では美味い以外の感想が浮かばなかったまま支払いになった。
阿地が渡してきた金額から、余った分は返そうと思っていたのだが、思った以上に高額で、支払いをすませるとほとんどお金が残らなかった。
なんだか食べた気がしないまま帰り道を歩いている途中、ピコンピコンと阿地のスマホの通知音が鳴り止まなかった。なんといわれているのかは知らないが、そう単純な話でもないぞと思わず文句の一つも言いたくなった。
それから帰宅して、阿地は二人分のレトルトカレーを出してくれた。『やっぱり量が足りませんね』と言っていたが、つまりは承認欲求のみであんな高い店に行ったのかと開いた口が塞がらない日だった。




