020_妹はお仲間に不満のようです
「クソがああああああ!」
隣の部屋から怒号が聞こえてくる。大体何をしているか分かっているので今更とやかく言う気は無い。無いのではあるが……
「おにいちゃーん! 仲間ガチャが外れてランクマッチに負けましたー!」
部屋のドアの前で泣き言を言っている。そのさ、確かにネトゲでは仲間ガチャなんて言葉があるのは知ってるが、あまり良い言葉ではないと思うんだがなあ……
とはいえ、呪詛の言葉を部屋の前で唱え続けられても困るので、ドアを開けると俺に妹が飛びついてきた。
「うぅぅ……お兄ちゃん、慰めてください」
「ネトゲの人間関係に一喜一憂するのはやめなさい」
ド正論を返しておいた。励ますことも慰めることも出来るが、そうしたら阿地のヤツが調子に乗ってプレイ中に暴言を吐きかねない。ネットの世界は自己責任、俺も責任を取れないので妹の行為は妹が責任を負わなければならない、ならば出来るだけリスクを減らしておきたい。
「お兄ちゃん! そんな事言うのはやめてください! ここは妹を優しく慰めてくれる場面でしょうが!」
「隣の部屋まで思い切り罵声が聞こえるようなことをしておいて慰める気になると思うか?」
「だってMOBAの基本ルールさえ知らないようなムーブするんですよ? ランクマッチでされたらムカつくじゃないですか!」
ちなみにMOBAとはネトゲの一ジャンルで、主にランダムで組んだチーム同士で戦うというものだ。数人でチームを組むのでいくら慣れている猛者がいてもチームメンバーに恵まれないと負けるときは負ける。それが面白いのだと思うのだが、妹様はそれが気に食わないご様子だ。
「分かったから、それはそれとして汚い言葉を使うんじゃない」
「おや、お兄ちゃんとしては妹の十八禁ボイスが聞きたくないと?」
「俺はお前にとっての汚い言葉の基準がソレなのが心配でしょうがないよ……」
汚い言葉でもないだろうが……そういうのはそういうので需要があんだよ、いや、俺は買ってないけどね?
「一応聞いておくがボイチャとかしてなかったよな?」
「当然です! ボイチャに流れると大変なので対戦が終わったらユーザー名を隠したスクショを晒したくらいです!」
「くらいですじゃねえよ! そんな素行の悪いことをやってたらそのうち罰が当たるぞ!」
「私は神をも恐れない妹なのでそんなことを言われても困りませんよ。知らないんですか? 神ってチェーンソーでバラバラに出来るんですよ」
何歳だよ……そのネタが分かるのはレトロゲーマーと当時現役プレイヤーだったヤツだけだぞ?
「お前な……このご時世宗教絡みで揉めることはよくあるんだから不用意に争いを起こそうとするんじゃない」
「このくらいジョークでしょ。キノコとタケノコくらい論戦が広がってはいませんよ」
論戦の基準が余りにもアレ過ぎませんかね……?
「なあ……お前って戦闘民族だったりする?」
「私は戦うのより勝つことが好きなので違いますね。負け戦は嫌いなのでしかけません、そこらの戦闘狂と同じにしてもらっては困りますね」
何故か自信ありげに言う妹に対して、それでいいのかと思わず訊きたくなってしまうほどだ。
「というわけなのでお兄ちゃん、ランク関係無いフレンドマッチでスッキリするためにチーム組んでください」
「しょうがないなあ……」
これ以上隣の部屋から罵声が聞こえてくるのも嫌なのでそれを引き受けて、スマホでアプリを起動した。
阿地のフレンドコードを入れて同じルームで対戦相手を待つ。俺のレベルは余り高くないが、妹のサポートに振り回された経験があるのでこのチーム戦なら慣れたものだ。
その日、妹が不平の一つも出ないほどに、数回相手を叩き潰した。お相手には申し訳ないのだが、我が妹のメンタルの安定のため、貴い犠牲になってもらった。
その晩、食事中にスマホを見ている妹がいたので、近くを通ったときにちらっと見えてしまったのだが、今回の戦績をニヤニヤしながら見ていた。うん……本人が満足ならそれでいいんじゃないかな。
俺は全てを諦めた上で、妹がそのうち自分でチームをキャリーできるようになる日が来るといいなアなんて子とを思った。




