156_妹の様子がおかしい原因
「お兄ちゃん、私たちっていい雰囲気だと思うんですよ! ここは一歩前に進みませんか?」
「何だよいきなり、一歩前ってどこかに遊びに行くとかか?」
「いえいえ、もう直球にお泊まりを……」
「一歩って言ったじゃねえか! 百歩どころか時空を超えてるレベルの進み方だよ!」
まったく、健全な世界でガタガタ危ないことを平気で言うから恐ろしい。俺たちは誰にも憚ることの無い存在でなければならないんだよ。
まったく、一日の朝からとんでもない発言をぶっ込むヤツだ。どうせコイツのことだから露骨な表現が無ければセーフだとでも考えてるんだろう。
「まあまあ、始めに外泊をしてそこから一歩一歩進んでいってもいいじゃないですか」
「わぁ! 地獄への道は善意で敷き詰められてるって言うけど、どうも善意以外でも敷き詰められてるらしいな!」
「そりゃそうでしょう、善意だけじゃなく、欲望や希望だってたっぷりあるに決まってるじゃないですか。その欲望の中に私の性欲があってなにが悪いと言うんです?」
ダメに決まってんだろ……堂々とアウトなことを言うんじゃない。
「危ない発言は頼むからやめような? どう考えても炎上するだけの話だからな? いや、やっぱ炎上じゃねえや、常温核融合くらい熱そうだよ」
「お兄ちゃんは気にしすぎなんですよ。いいですか、ここから突然翌日になって私とお兄ちゃんが同じベッドで寝ていて、窓の外で雀がちゅんちゅん鳴いてても具体的に何が起きたかは確定しないんですよ。勝手に誰かが何かを想像する可能性は否定しませんがね!」
「完璧な屁理屈だよ!」
そんな暴論が通るか! どれだけの作品がお気持ちで燃えてると思ってんだ……そんなことをセーフにしたらこの世界は今から無法地帯になるよ!
「お兄ちゃん、いいですか、倫理でご飯は食べられないんですよ。もっと現実的なことをしましょうよ、お行儀よく誰にでも優しい人は大抵ロクなことになりませんよ?」
「俺はそういう人が報われる世界であって欲しいと思うんだがなあ……」
そう上手くは世の中の仕組みが出来ていないのだろうか? 出来ることなら立派な人が報われる世の中であるといいなと思う。
「お兄ちゃん、私とお兄ちゃんがお行儀よく優しい人ではないんですよ。だからきっとお兄ちゃんと欲望をさらけ出してもみんな気にしませんって」
「勝手な理屈を!」
「私はお兄ちゃんが好きで……ヒック……だから何をしても……うぃ……」
なんだか阿地の様子がおかしいので俺は阿地の方を支えてソファに寝かせた。とりあえず水でも飲ませようかと思い、コップを出して水を注ごうとしたところで気が付いた。
足下のゴミ箱に触れるとカンと高い音がした。中には大量のエナドリの缶が入っている。
様子がおかしいと思ったら、これのせいで深夜テンション引きずったのかよ……人騒がせなヤツだなあ……
俺は阿地に多めの水を飲ませてカフェインを薄めた。何とか少し寝て、正気になった妹が、記憶が飛んでいる間に何をしたかと聞くので。精一杯の優しさで『寝てたよ』と言っておいた。まあなんだ、人は時々エナドリをがぶ飲みしたくなるときだってあるのだろう。そして妹への優しさはあってもいいんじゃないかと思った。




