016_妹とカレー
今日は俺が食事当番の日なので、適当にスーパーで食材を買ってきた。カレーにしてしまえば多少不自然な具も許されるのだと思う。つまりカレーは全てを許しますというわけだ。
「お、今日はお兄ちゃん謹製のカレーですか!」
「ただのカレーだよ」
楽しそうに言う阿地に、俺は笑みを返して「美味いぞ」とだけ言っておいた。今日は奮発して牛肉を買ってきたので味に間違いはない。美味しいものに美味しいものを入れるのだから美味しいに決まっている。
「じゃあお兄ちゃんのカレーに期待しておきますね! 私もお手伝いしましょうか?」
「いや、今日の当番だからな、俺だけで作るよ」
少し不満そうだったが、俺が最後まで作るのが良いと思ったのか、おとなしくリビングのソファに寝転んでいた。俺への謎の信頼感だがそれでいいとは思う、兄に信頼を持ってくれるのは悪いことでは決してない。
適当に肉を炒めていると、妹が来て鍋を覗いて言う。
「ほほう……お兄ちゃん、奮発しましたね。牛肉とはやるじゃないですか」
「何目線だよ、お前格闘技の前にオイオイオイとか言ってるようなムーブしてんな」
「ふ……お兄ちゃん相手には達人ですからね。何年一緒に暮らしてると思ってるんですか?」
はいはい、すごいすごい。俺は阿地のことがよく分からないのは何でだろうな? 同じ年数一緒に暮らしているはずなんだがな。
妹というのは長年一緒に暮らしてきても理解できない相手だと思っていたのだが、コイツにとっては兄が理解にたる人間らしい。俺だって自分の気持ちが分からないのに、平気で心の中まで見透かしてきそうな視線が怖い。
「ところでお兄ちゃん、味見をさせてくれませんか?」
「まだ肉を焼いているところなんだが……」
序盤も序盤で味見も何もないと思うのだが、菜箸で一つ火の通った肉を阿地の口元まで持っていく。
そこまでは良かったのだが、コイツ菜箸をペロペロなめてやがる。洗うか……
「お兄ちゃん、洗わなくても熱で消毒されていますよ」
怖っ……ヤンデレかよ。とは思いつつ、その菜箸をこっそりと使わないようにしながらヘラを使って炒めていく。そもそも菜箸はさっき味見をさせるためにとりだしたものだから問題無い。
肉に火が通ったので野菜を突っ込んで炒めていく。ゴロゴロにカットした野菜なので結構な量のカレーが出来るのだが、有り難いことに好き嫌い言わずに阿地はなんでも食べてくれるので問題無い。ただ、俺が作ったものであることが条件であるのが少しの難点だがな。
しばし炒めていると、良く火が通ったので水を入れて煮立たせると、少し煮込んでルウを入れる。いい感じの匂いが漂ってきた。
「これは美味しそうですね! お兄ちゃんの手作りと言うことで倍率ドンですよ!」
そこまで誰が作ったかが重要なのだろうかと疑問だが、実際俺は阿地の作ったものなら文句なく食べるので、案外料理というのはそう言ったものなのかもしれない。
「お兄ちゃん、いい感じに出来ましたね。ご飯も炊けたようですし、一緒に食べましょう!」
そう言うものだから時間も時間だしなと思いつつ、ご飯の盛られた皿にカレーを入れる。良い香りが漂うので食欲をそそられる。
それをテーブルに並べて、じゃあ食べるかとなったところで阿地が口を開けて顔を突き出してきた。
「お兄ちゃん、食べさせてください」
「お前はひな鳥か……と言うか今のだと……」
「食べさせてください」
ゴリ押ししてくる阿地に呆れつつ、食べさせろと言ったのは本人なので、ライスとルウをすくって阿地の口に入れる。
「熱っ! 熱い! 焼ける!」
そんな悶絶をしている。今まで煮込んでいたカレーなんだから当然だろうと思いながら見ていると、阿地は不平を述べ始めた。
「お兄ちゃん、妹相手にこれはどうかと思いますよ。ちゃんとカレーは冷ましてから口に入れてくださいよ」
「確認もせずに口を開ける方が悪い」
そんな何気ないやりとりをしながら一日が過ぎていった。こういう日常は平和で助かるなと思う。ちょっと阿地の不穏な行動もあったが嫌いじゃない、それでいいのだと割り切れるくらいの日だった。




