150_妹とくだらない論争
今日は妹の阿地が喜んでいたので、『何か良いことでもあったのか?』と訊ねると、自信ありげに『読者プレゼントが当選したんですよ!』そう言って封筒を一枚こちらに見せてきた。
そこには出版社のロゴが入っており、宛先は阿地になっている。
「何の読プに応募したんだよ?」
なんとなく予想は付くが一応聞いた。
「妹ゲーの攻略本です! 何と声優さんのサイン付です!」
「ソイツは結構なことだな」
「お兄ちゃんもこのゲームの主人公くらい愛情を示してもいいんですよ? ほら、恥ずかしがらずにね?」
「愛情なら普段から十分示しているだろうが……お前、愛情と劣情の区別が付かないのか?」
その二つは全く別のモノだと思うんだがな、ごっちゃにするようなもんじゃないと思うのだが、阿地からすれば同じものなのかねえ……歪んだ考え方はただすべきだろうか?
「劣情も抱いてくれると嬉しいですねえ……ちなみに、私はお兄ちゃんに劣情もたっぷり抱いていますよ!」
「頼むから兄妹という関係性を崩そうとしないでくれ」
もっとも、この言葉が阿地に届かないことは百も承知だ。
俺は苦いコーヒーを飲みながら、もう少し妹に厳しくした方が良いのかなとも思う。もっとも、兄妹だから感の情が正しく伝わるかと言えばそんなことは全く無いわけだが。
「お兄ちゃんは上司に囚われすぎですよ、偉い人も言ったじゃないですか『常識は大人になるまでに身についた偏見である』って言ってますよ」
「そうかもしれないけど、相手の価値観とのすりあわせは必要だと思うんだが……」
「些細な問題ですよ、私がお兄ちゃんを好きなことに何の理由が要ると言うつもりですか、私の価値観からすれば『兄にとって妹は全て等しく可愛い』って価値観なんですけど、すりあわせ何でしてくれるんですか? お兄ちゃんは自分の価値観を押しつけたいだけでしょう」
ちょっと痛いとこを突かれた。正直妹の価値観に譲歩出来る部分が少なすぎる。理解し合えないもの同士だとは正直思うんだよなあ。
「理解出来ないにしても理解しようという努力は必要じゃないか?」
「ねえ、お兄ちゃん。一つ言ってもいいですか?」
突然神妙な顔をして言うものだから俺は頷いた。
「兄妹での恋愛はありかなしかなんて話にそんなご立派な人の言葉のようなものが必要ですか? 好きから嫌いかで全部終わっちゃう話だと思いますよ。そんなしょーもない話題をさも高尚かのように語るのはやめませんか?」
俺は黙り込むしかなかった、冷静に考えれば論点はそこなので、倫理の教科書も匙を投げそうな話を大真面目に語っても誰がまともに聞くんだよって話だ。
「はぁ、分かったよ、お前の価値観は自由にしてくれ。俺は俺の考えで動くよ」
「お兄ちゃんには渡しに歩み寄ってくれても罰は当たらないと思うんですがねえ」
そんなとてもくだらない時間の会話が、どうしようもなく楽しく思える俺がいるのも事実だったが、それは阿地に黙っておいた。




