148_妹とスピーカー
今、俺は部屋にこもっている、その理由は隣の部屋から聞こえてくる得体の知れない音楽から逃げるためだ。
隣の部屋から聞こえてくる得体の知れない音楽は……「妹ASMR」だと思われる。そんなもんをイヤホンもヘッドホンも使わずスピーカーでぶちまける妹の胆力は怖い。いや、普通はそんなことするなんて思わんだろう?
普通はASMRなら音漏れしないものを選ぶだろう、堂々とスピーカーで流すなよ……
スピーカーから流れる曲の合間に、妹の悶える声が聞こえるのだから叶わない、何の罰ゲームだよ。
仕方ないのでこうして部屋にこもっているが、正直に言えば、今すぐネット通販で吸音材をたくさん買って部屋の壁に貼りたいくらいだ。安眠妨害にも程がある。
気が散って仕方ないのでイヤホンをして聞こえないようにした。スマホから音楽を大音量で……鳴らそうとして、スマホに通知が来た。どうやら一枚のjpgを送信してこようとしているようだが……そのファイル名が『聞こえますかお兄ちゃん?』というものだったので、そっとファイルの受信を拒否して、なにも無かったことにした。
音楽をかけているとなんとか雑音から逃げられる。スマホで『これ以上上げると耳に悪影響が……』と表示されるまで音量を上げて、それからPCに向き合った。
なんでこんな時に課題をやっているんだろうな……そう嫌気は差すのだが、課題の方は逃げてくれない。ひとしきり必要なものを終わらせていく。
退屈な課題は割と早く終わってしまった。時間が余ったのでゲームでもするかと思い、クライアントを起動するとフレンド申請が来ていた。見覚えのある名前……妹からだった。
誰がネット上のゲームでまでリアルの関係を持ち込みたいんだよ、そう思ってそっと拒否をした。ネトゲ上まで妹がいると気が休まらないんだよ。
そんなことを経験しながら、ネトゲを数マッチプレイすると耳を解放した。隣の部屋は静かになっているので、ようやくあのスピーカーでASMRを聞くという無茶を辞めてくれたようだ。
一安心してキッチンに向かった。そこには阿地がいて……
「お兄ちゃん、いい朝ですね!」
誰かさんのせいでまともに朝を体感していないんだがな、そう思ったが言わなかった。言わない方が良いのだろう。
菓子パンを牛乳で流し込んで部屋に帰ろうとしたときだ、ふと阿地の隣を通ったときに聞こえた。
「お兄ちゃんもああいう音声は好きですかね……?」
そうこっそりと言われたので、聞こえなかったふりをして部屋に戻った。そのバンは静かな夜だったが、なんだか心がざわつく日だった。




