145_妹は美味しいご飯を目指している
「お兄ちゃん、今日の朝ご飯はどうですか?」
「美味しいな」
白米に魚、ソレとおひたし、十分なメニューだし、何より妹の阿地が作ったものを不味いだなんて言うだろうか?
俺は当然のように美味しいと答えたし、実際美味しいと思う。ただ、それに誰が作ったかというメタデータが評価に影響していないとは言えなかったろう。
「なるほど、お兄ちゃんは和食が好みと……」
「食事中にスマホを出すなよ、何をやってるんだ?」
「お兄ちゃんの好みをしっかりと記録しておかなければなりませんから」
「暇なんだな」
そんな軽口を叩きながら兄妹で話をしていた。俺の記録なんて残して何が楽しいのかは分からないが、本人が楽しそうにしているのだから楽しいのだろう。それに口を挟むことはない。
「ところで、なんでトーストとベーコンエッグを食べてるんだ?」
俺は妹にそう訊ねた。俺の方は完全和食なのに、阿地の方は普通の洋食だったので思わず尋ねてみた。
「ああ、それは私が食べたかったからです。ただ、お兄ちゃんの方は好みを調べないといけませんから、まだデータに残してないメニューを作ったんですよ」
「そんな理由でこの食事が作られたのか……」
なんともあっけない理由だった。そんな理由で俺の分の食事を別で作ったのは、その執念には感心出来る。ただ、褒められたことではないと思うんだがな。
「お兄ちゃんの完全なお嫁さんになるべく、私はお兄ちゃんの調査を欠かしませんから」
「妹が嫁宣言するなよ……まあ好きにすればいいけど、俺にそこまでの価値が有るかは知らんぞ」
「私が価値を感じているんだから構いませんよ。そんなものです」
言い切るのにはある意味ですごいなと思う。よくそんなことを断言出来るもんだ。
しかしそれを聞くとプレッシャーを感じずにはいられない。いや、ただ料理を食べているだけあんのだが、それが妹の今後に関係すると思うと無用な義務感のようなものにかられてしまう。
「ちなみにお兄ちゃんは魚は照り焼きと塩焼きどっちが好みですか?」
「塩焼きかな」
どこぞのネット広告会社もビックリなほど情報を集めてくるな……その努力をもう少し有意義なことに使って欲しいとお兄ちゃんは思うぞ?
「なるほど、ちょっと岩塩でも注文しておきましょうか」
「そこまでこだわんなくていいから! もう少し気軽に食べられる朝ご飯にしような?」
日本で朝から岩塩で仕込んだ魚なんて食べる家庭がどのくらいあるというのか。一般的な平均というヤツを身につけてくれ。
「お兄ちゃんは遠慮しますねえ、もう少し欲望のままに行動してもいいんですよ」
「人間は理性の生き物だと思ってるんでな」
本能のままに行動するのが危ないことは理解しているだろうに、平気でそんなことを言わないでほしいものだ。
兎にも角にも、そうして朝食は進んでいった。その日は阿地の当番だったのでデータをとっていただけかと思っていたのだが、翌日俺が作った朝食を写真でとって、何やらメモらしきものを付け足しているのには執念のようなものを感じて震えたのだった。




