142_妹とその欲望
「お兄ちゃん!! おはようございます!」
何気ない朝のはずだ、部屋に鍵を付けてそれを何事もないように妹が開けて俺に声をかけていることを除けばだが……
「おはよう、鍵はどうやって?」
そう訊ねると、ドヤ顔でバールのようなものを取り出した。
「私はコレを『マスターキー』と呼んでいます」
「物理じゃねえか! どうやって傷も付けずに開けたんだよ!」
どう考えてもドアに傷一つ無いまま開けられるようなものではない。おかしくないだろうか?
「お兄ちゃん、柔能く剛を制すと言う言葉をご存じないんですか? これだって慎重に使えば上手いこと開けられるんですよ。壊して破るのは三流の方法です」
ソレは自慢することではないような気がするが……本人は楽しそうにしている。もう考えるのも諦めて起きてからキッチンに向かった。部屋のドアに鍵をかけておいたのが無駄になったので鍵をかけるのをやめることにした。妹にドアごと破壊されたくは無いしな。
キッチンには美味しそうな匂いが漂っている。結構凝った料理を作ったらしい、阿地の方を見ると自慢気に胸を張っている。
「どうですお兄ちゃん! 美味しそうな朝ご飯でしょう? さあ食べましょう」
俺はトーストにバターとマーマイトを塗ってから囓る。塩味が美味いなと思いながら食べていった。
「お兄ちゃん、朝ご飯の希望とかあります?」
突然そんなことを聞かれたので『和食のメニューが好きかな』と答えると阿地は不機嫌そうな顔になった。
「そういうときは『私の料理ならなんでも美味しいよって言うもんですよ』」
「結論ありきじゃねえか……なら聞くなよ……」
「お兄ちゃんの口から聞くことに意味があるんですよ。女の子のお気持ちなんてそんなモノです」
「無駄に主語がでかいことを言う……」
そう言う発言を安易にすると反感を買うかもしれないから、無難な発言にしておいた方がいいと思うんだがな。
「いいじゃないですか、お兄ちゃんには私が居て、私にはお兄ちゃんがいるんですから。『なにも足さない何も引かない』ってやつです」
本当にそれでいいのかは疑問だが、本人はいたって真面目に言っているようだ。どこぞのガキ大将もビックリな理論だが、コイツ前世はよほどの欲張りだったのだろう。
「それで、朝食の感想をいただきたいのですが」
「阿地が作ったものが不味いわけないだろ、とても美味しいよ」
実際美味しいのだが制作者の性格が残念すぎる。
「……まあ合格としましょう。お兄ちゃんの妹検定はまだ始まったばかりですよ」
「それ打ち切り回で言うやつ……ずっと妹検定を受けさせられる可能性を考えろよ」
「それはそれでよし!」
堂々とそう言いきる阿地に俺は呆れるほかなかった。果たしてその日のマーマイトがやや苦く感じたのは品質の問題なのだろうか?




