139_妹は負けたくない
その日はスマホを弄ってソファで寝転がっている阿地を見ながらコーヒーを飲んでいた。実に平和な午後だなと思いながら砂糖たっぷりのコーヒーを飲んでいるところで、我が妹が顔を上げこちらに近づいてきた。
「お兄ちゃん! レスバで負けそうなので協力してください!」
絶望的にしょうもない、どうでもいい理由で勝手に人の平穏な午後を破壊しないで欲しい。そんなもん負けようが勝とうがどっちでもいいじゃないか……勝ってどうなるって言うんだよ?
「ちなみに負けそうになってるって何処でレスバしてるんだ?」
「鳥ッターです!負けそうなので協力してください」
「負けていいじゃん、言わせとけよ……そんなんブロック一択だろうが」
クッソどうでもいい勝負に俺を巻き込むのはやめてくれ。勝手も何も得るものがない上に、燃えるから失うものだけはある戦いに俺を投げ込まないで欲しいよ……
「悔しいじゃないですか、ちょうど政治の話題が流れてきたので対立煽りをしただけですよ! なんで私が叩かれなきゃならないんですか!」
「純度百パーセントのクズ行為をしておいてその態度が取れるメンタルは見習いたいよ」
そんなんどう考えてもお前が悪いじゃん。負けも何も勝ち筋が見えないんだよ。そういうのは捨て垢でして燃えるだけ燃えたら垢消しするべきものであって、負けて悔しがったり、消して困るアカウントでするもんじゃない。
「なあ、アカウント消そうか。そのアカウント使い続けてたら、これから燃える度にその話を蒸し返されるぞ?」
「え、だってこれ本垢ですよ?」
「本垢で炎上に首を突っ込むんじゃない! そんなことしたら何がどうなるか分かったもんじゃないだろ!」
ついでに言うなら、確かに何がどうなるか分からないが、悪い方向に事が運ぶことだけは分かる、そんなことをしてメリットなんて何一つない。
「お願いですよー、お兄ちゃんも一緒にレスバに身を投じましょうよ、煉獄で戦うのだって慣れると心地いいもんですよ?」
「やだよ……なんで終わらない戦いに身を投じるのを楽しんでるんだよ? お前は戦いに取憑かれてんじゃないのか?」
戦いのために戦うようなことは本当にやめて欲しい。優雅に午後のコーヒータイムをクッソしょうもないレスバで壊すのは本当にやめてくれ、その戦いは何も産まないぞ。
「まあまあ、お兄ちゃん、いい感じにしてくれたら冷蔵庫のアイスを奢りますよ」
アイス一個につられるかどうかは言うまでもないが……この戦いを終わらせる意義はあるな。
「スマホ貸してみろ」
「はい!」
喜々として阿地はスマホを渡してきたので、俺は迷うこと無く操作をしてスマホを返した。
「レスバは終わったぞ」
「さすがお兄ちゃ……えええ!!! アカウント消えてるじゃないですか!」
「そんなもん逃げるのが一番に決まってんだろ。これがレスバで一番良い対応なんだよ。グダグダ言ってないでもう少し治安のいい界隈に参加しろ」
「うぅう……お兄ちゃんは血も涙もないですよ……レスバは相手が欠片も残らないまで戦うものじゃないんですかぁ……」
何処でそんな偏った情報を手に入れたのかは知らないが、俺は断じて違うと言ってやりたい。
そうして俺は何とかお昼の平穏を取り戻した。妹の愚痴は付いてきたが、それでレスバと縁を切れるなら十分だとは思った。




