136_妹様は退屈をしている
「お兄ちゃん、私は退屈しています!」
いつものことなので「そうなんだー(棒)」と返しておいた。コイツの言う退屈に付き合っていたら人生が百年あっても全然足りない、暇なくらいがちょうどいいんだよ。
「もう少し真面目に考えてください!」
そんなことを言われてもな、そうそう面白いものが転がっているはずがないだろう。そんなに非日常に溢れていたら、生きてて苦労して仕方ないだろうに。
しかし我が妹はそんな言葉で納得していないようで、グチグチと俺に不平を述べてくる『暇人』だの『お兄ちゃんにはエンタメが足りないんです!』だの『もっと私と遊びましょうよ』などと言っていた。
正直興味なんてありゃしない。むしろ退屈なのは良いことだろうと思うんだがな、平和な毎日に何の不満があるというのだろう?
「なあ、もう少し暇にしててもいいんじゃないか? 退屈なんだろ? って事は困りごとも無いってことじゃん、それにこしたことはないだろ」
俺の言葉に阿地は首を振る。どうやら納得はしてくれないらしい。そこは納得して欲しいと頃なんだがなあ。
世の中に一体どれだけ特別なことがあるんだよ? 大抵の人間は暇な一生を過ごすんだと言って納得するだろうか?
とことん非日常を求めるヤツだ。そんなものを手に入れたところで人間は変わらないと思うんだが、コイツは違う考えなのだろうか? もう少し退屈でもいいと思うんだがな。
「お兄ちゃん、いいですか? 私とお兄ちゃんは兄妹であり男女なんですよ? そこにロマンスの一つや二つや三つや四つやたくさんあっても問題無いでしょう?」
「大分欲張ったなお前」
どんだけ退屈が嫌いなんだよ……兄妹でロマンスがそんなにたくさんあってたまるか。と言うか二つ以上のロマンスってなんだよ? 新しい妹でも出てくるのか? それとも噛ませヒロインでも出せば満足なのか……? どうせ一番じゃないと納得しないくせに。
「いいじゃないですか! お兄ちゃんともっとロマンチックなことがしたいんですよ! ほら、夜に二人きりで星を見に行ったりとか憧れませんか?」
「最近そこら中にイルミネーションがあって、夜空に星なんて見えなくなって久しいだろうが、今更何処で見る気だよ」
「それは正論ですよ! ロジハラです! 正論で私を納得させようとしても無駄ですよ!」
「えぇ……」
ゴネるなあ……そんな無敵の理論で来られたらどうしようもないじゃないか。ゴリ押しの理論で来られると勝負のしようがないんだよ。自分の結論ありきであって話し合いじゃなく、俺の説得が目的じゃないか……
「じゃあ今晩私の部屋に来てください、窓から一緒に星を見ましょう!」
「だから星なんて見えないだろ」
俺はそう言ったのだが、阿地は『来れば分かります』と言って譲らなかった。仕方ないので太陽が沈んでいくらか経ったときに阿地の部屋を訪れると、余り広くない窓から、体を寄せ合って夜空を見上げることになった。
俺の手を握ってくる阿地の手が熱っぽく、隣を見ると顔を赤くした妹がいた。どうやらコイツの言う非日常というのはこういう事らしい。
くっついたまま、しばらく二人で暑苦しい体勢で夜空を見ていた。一応はしばらくそうしていると納得してくれたようだ。
俺はつくづく本音と建て前というのは難しいなと、世の中の理不尽を呪ったのだった。




