131_妹は出番が無い
平和だなあ……
俺はそんなことを思っていた。今はしっかりとノイズキャンセリングヘッドホンを着けて、流行のロックバンドを爆音で聞いている。
だから隣の部屋の音なんて聞こえないし、これを聞く直前になんだから隣の部屋から艶めかしい声がした気がするが、今は全く聞こえないので問題無い。きっと阿地がだらしない寝言でも言っていたのだろう。うん、そうに違いない。
そうしてPCと向き合いながら音楽を鳴らしつつゲームをしていた。幸いネトゲのエンドコンテンツなのでクリアして終了とはならない。夜遅くまでプレイしていれば隣の部屋も静かになるだろう。
そんなことを呑気に考えていると、いきなりbluetoothが切断されてゲームオンが響いた。どうやら最近使っていなかったので大丈夫だろうと思っていたが、やはり充電がまずい状態だったらしい。
慌てて優先イヤホンを引っ張り出してジャックに挿すととりあえず音は静かになった。
「ん……ん……」
隣の部屋から相変わらず何か聞こえてきているが、聞こえていないことにしよう。その方が人生を平穏に過ごせそうだからな。深く考えてしまうと想像力が爆発しそうなので頭の中でボスとの戦いの事を考えていた。
ヘッドホンを付けて音量を調整してからボス戦への参加希望を出す。すぐにマッチして戦闘準備に入ったのだが、そこでふと、ワイヤレスデバイスを使ってネトゲをするべきでなかったなと自分の浅慮さに気が付いた。
それを警告するために阿地はあんな……いや、絶対に違うな。ただ単に本能に従っていたとしか思えない。そういうヤツなので深く考えるようなことはしないはずだ。
ボス戦ではボイスチャットをしながら戦うのだが、自分以外初見だったので指揮をしなければ全滅する。怖々とマイクをミュートから復帰させて指示を出し始めた。
「彼女さん居るんすか? このボス長丁場だって聞きましたけど大丈夫です?」
やはりあの声が乗ったか……マイクの音量を調整して、『気にしないでくれ』と言いボス戦に入った。
幸いそれ以後深く聞かれることはなく、普通にボスと激戦を繰り広げた。倒しきるとやりきったという感覚が全員を包んでいた。
アイテムの分配が終わると皆、お辞儀や手を振るエモートをして脱出ポータルに入っていった。普段なら難なく倒せるボスだったのだが、新人がいたからではなく、隣の部屋が気になったせいで随分と苦戦した。
これからはきちんとノイズ対策をした方が良いな。
一戦が終わってヘッドホンを外すと、隣の部屋からはもう何も聞こえてこなかった。ようやく寝たのかと思うと同時に、アパートでもないのに壁の薄い家を恨むことになる。




