129_妹とその秘密
俺はその日、夜にコーヒーを飲んでいた。幸い明日は休みなので夜更かしができる。そう思いPCに向かってSNSでレスバをしていた。向こうも暇つぶしにやっているらしい、要するに茶番のプロレスとしてやりとりしていた。
そうして暇を潰しているとノックの音がした。阿地がまたなんかあったのかと思い、ドアを開けると、半泣きの顔をした阿地がたっていた。
思わず『どうしたんだ?』と訊ねると、『お兄ちゃん! 怖いので一緒に寝てください!』と言ってきた。いつもの冗談めかした顔ではなく本気のようなので、どうしたんだよと聞くと、泣きながら『雷が怖いんですよぅ』と言った。
そこでようやく、そう言えばコイツ雷が苦手なんだったなと思いだした。
ヘッドホンをしてレスバしていたので外に雷が鳴っていたなんてすっかり忘れていた。阿地は俺の手を引いて廊下に引っ張り出してくる。
「お兄ちゃん……今日だけでいいので私の部屋で寝てください!」
泣きそうな声でそう言うものだから、思わず頷いてしまった。怖いもんな、そう思いながら今日くらいは良いかと思い阿地の部屋に入ると床に横になった。
「一緒の布団で寝てくれないんですか?」
泣きそうな声でそう言うのだが『そんなのはダメだな』と答えると、いつものイタズラっぽい声ではなく、聞き分けよく諦めたので、どうやら本気で切羽詰まったことらしいと判断出来た。
いつも怖いもの知らずなことをしているのに、こんな事が怖いのかと思いながら床に横になった。
阿地はスマホでヒーリングミュージックをかけながら布団をかぶっていた。この暑い季節によくやるなと思いながら、妹の人間らしいところを見た気がして少しだけ嬉しかった。
しかし、普段は怖いもの知らずなのに突然子供っぽくなったなと苦笑しつつ固い床の上で目を瞑った。自慢じゃないが、妹が時々ダダをこねるものだからこうして床の上で眠れるようになってしまった。
あっさりと寝て、翌朝太陽の光が部屋に入ってきて目が覚めた。阿地の方はぐっすり寝ているようだったので、キッチンに行って朝のコーヒーを飲んだ。窓の外は明るくなっていて、昨日の雷は嘘のようだった。
少しゆっくりした時間を過ごしていると、阿地がやって来た。
「その……お兄ちゃん、昨日はありがとうございます」
殊勝な態度に少し驚きつつ『気にすんな』と答えた。怖いものの一つや二つ誰にだってあるだろう。
「申し訳ないんですが、昨日のことは忘れてもらえると……」
「ああ、分かった分かった、お前はそんな怖がりじゃないな」
まあ、雷が怖いのを隠す必要があるのかは疑問だが、本人が隠したいなら吹聴して回る気も無い。微笑ましい妹の一面として自分の心の中にとどめておくことにした。
それにしても、妹の恥ずかしがるポイントは分かんないなと思い、阿地のことならよく知っていると思った自分が、実はそこまで詳しくなかったんだなと思わされた一件だった。




