128_妹は兄の好みを知りたい
「お兄ちゃん、少しお願いがあるんですけど」
「なんだよ?」
いつものことだがウチの妹は唐突にお願いをしてくる、自由すぎやしないだろうか? まあそれでも出来る話は聞くんだがな。
「大したことではないんですが、退屈なので読書でもしようかと思いまして、お兄ちゃんのオススメを教えてくれないかなって」
「そりゃあ別に構わないが、俺のオススメでいいのか? 本なんて好き嫌いが人の数だけあるんだぞ?」
俺は某有名作品がどうにも合わなかったことがある、それを巡ってクラスで面白いという派閥と読めたもんじゃないという派閥に分かれたことがあった。
それから安易に本を薦めるのもどうなんだろうなと思うようになった。
「いいですよ、お兄ちゃんの好みが知りたいだけなので、本の内容が面白いかじゃなくて、お兄ちゃんの好きな作品を体験するのが目的です」
「そんな理由で本を読むのかよ……」
物好きだなあとは思いながらも、俺は阿地が呼んでも問題なさそうなものを考えた。とりあえず思いついたのは無難に青春を描いた小説だった。阿地の好みに合うかどうかはともかく、そこは今回余り重視しないそうなのでそれを貸すことにした。
部屋に戻って文庫を手に取って持ってくると阿地に手渡した。
その本の表紙をじっと見てからためつすがめつ本を見ているのを見ていると、本当に本の内容はどうでもいいんだなと、その徹底ぶりに呆れそうになった。
俺は一人コーヒーを飲みながら、じっくりと本を読み進めていく妹を眺めていた。内容が本当に頭に入っているのだろうか? そう不安になりながらスマホを弄っていた。
ペラペラページをめくる音が響いていく。平和な時間だなあと思っていると、コーヒーを飲み終わったところで眠くなってきた。船を漕いでいると、ついつい意識がコテンと落ちてしまった。
目が覚めるとキッチンのイスに座ったまま寝ていたのが分かった。どうにもネトゲを朝方までやっていたのがマズかったのだろうと、自分でも加減が効かないなあと呆れていると、何かが自分の背中にあるのに気が付いた。
体を起こしてそれを手に取ると、どうやら服のアウターのようだと気が付いた。
「あ、お兄ちゃん! 起きましたか」
そう言われてようやく、自分の背中にかかっているのが阿地の着ていた服だと気が付いた。
「どうです、お兄ちゃんの貸してくれた本にあったシチュですよ? まあ、男女逆ですけどね」
そう言って笑うものだから俺はつい、『そうだな、悪くない』そう言って自分でも呆れるなと苦笑したのだった。




