013_賭けに乗るのは慎重にしようね
俺は何をしているんだ……
現在昼のうららかな日差しの中、座っている。それはごく普通だ。目の前にあるミルクだってごく普通のものだし、読みかけだった本もテーブルに置かれている。
問題は……
「スピー……ズズズ……」
豪快な寝息をたてながら人の膝の上で寝ている我が妹だろう。朝食は結構いろいろと出てきた、それを食べ終わる頃に阿地のやつは言ってきたのだ。
食器をテーブルに重ねて片付けるのかと思ったところで、『お兄ちゃん、買った方が負けた方に命令できるってどうですか?』、と言ってきた。
俺は考え無しに食器を洗うのがどちらか決めるのだろうとその提案に乗った。その結果ジャンケンで負けたので、しゃーない、洗うかと席を立とうとしたときに『お兄ちゃん、そこに座っててください』と言うが早いか、椅子を隣に持ってきて俺の隣に置くと体を倒して人の膝の上で寝てしまった。
抗議をしようとしたが『嘘は言ってませんよね?』の一言にねじ伏せられてしまった。いや、確かに命令の内容を考えていなかった俺にも問題はあるんだけどな。
テーブルの上のミルクに手を伸ばしてそれを一口すするのだが、どうにも落ち着かない。膝の上の暖かいボールが気になって仕方ない。しかも寝ていると言いつつこちらに顔を向けて視線の先を追っているので迂闊なことは出来ないため慎重に動いている。
立ち上がることも出来ないのでスマホを操作しようとしたのだが、スマホを手に取った途端に阿地のヤツが頭を器用に動かして画面を何とか覗こうとしてきたので諦めている。この際寝たふりをしていることは気にしないことにしよう。どうやれば寝た状態であんな器用に頭を動かせるのか、そんな器用なことが不可能なのは明らかだろうに。
『うぅん……お兄ちゃん、パスコードが見えるようにお願いします』
コイツはこれを寝言だと言い張りたいらしい。無理があんだろうというのは置いておいて、膝の上からパスコードが覗ける位置でスマホを操作できるかどうかが現実的か考えて欲しい。その姿勢になると俺はスマホを下から覗かなければならなくなるぞ。
「なあ、いい加減起きたらどうだ?」
無駄とは分かりつつも膝の上の妹に問いかける。
「う~ん……あと十年……」
あと十年て、十年はオマケのように主張する単位ではないような気がするぞ。というか十年お前の膝枕なんて出来るかよ。
「なあ阿地、多少は譲歩するからそろそろ終わりにしないか?」
少しの沈黙の後、寝言が帰ってきた。
「じゃあお兄ちゃんの部屋で今晩は寝ていいですか?」
一つため息をついたが、この状態では埒が開かないので仕方なくその提案を受けた。
その時にすぐ起き上がってICレコーダーをポケットから取り出した妹には呆れたものだ。
「じゃあ今晩を楽しみにしていますね」
俺はそれだけ聞いてから離れていった阿地を見送り、自室に来客用の枕をポイッと床に置いた。
その晩は阿地にベッドを使わせて俺は床で寝た。不満そうに『お兄ちゃんもベッドで寝ましょうよ』と言っていたが、「俺は床でも十分眠れるんだ」と言い張ってそのまま寝たのだった。




