120_妹は人の上に立ちたい
それは夕食を食べ終え、キッチンで洗い物をしているときのこと。背後から声がかけられた。
「……お兄ちゃん、今日は学校いかがでしたか」
「んー……まあまあかな」
こっちは洗っているところなのでついつい生返事になってしまう。大きめの皿は割らないように気をつけないと、個人的には紙皿に盛って食べ終わったら捨てるのが楽だと思うのだが、阿地的には何か拘りがあるらしい。
「お兄ちゃん、今日は良い天気でしたね」
「そうだな」
「お兄ちゃん、今日も勉強してますか?」
「ああ、してるよ」
「お兄ちゃん、今日は一緒に寝てもいいですか?」
「いいよ」
「!?!?!? って何聞いてんだよ! 普通の会話に重要なフラグをぶっ込むんじゃねえ!」
『いいよ』
俺の声が阿地のスマホから流れてくる。
「いやー、お兄ちゃんがあっさりいいといってくれるとは思いませんでしたね! さすが私のお兄ちゃん!」
「ただの小手先の話術だろうが! そんなもん消せよ!」
「おっと、私の手には先ほどの会話が全て録音されているんですよ? そんな反抗的な態度でいいんですかねえ、いやー学校中にお兄ちゃんがシスコンだという噂が流れちゃいますね、楽しみですねえ、ククク……」
「どう考えても悪役の台詞なのは自覚しておけよ……」
「ふん、お兄ちゃんを手に入れるためなら悪役になるくらい安いもんです、私はお兄ちゃんと核ミサイルのスイッチを比べたらお兄ちゃんを選びますよ」
堂々と言うなあ……
「そう言う言葉はデリケートさん方がやかましいから気をつけろよ?」
「何言ってんですか、そんな連中に配慮してたらお兄ちゃんを好きになったりなんてしないでしょう」
いわれてみればそれもそうだなと思う。そこまで気にする相手でもないか……って問題は違うだろ!
「そういう事じゃない、わざわざ危なっかしいことに首を突っ込むなってことだよ」
「おやおや、学校で道徳の授業を習ったお兄ちゃんらしくもない」
「……誰かさんのおかげで道徳の概念が破壊されてんだよ、つーか倫理も破壊したそうにしてるよな?」
「倫理が怖くてお兄ちゃんを愛せますかってんですよ、私は強いのでそんなゴリ押しに屈しませんよ」
ウチの妹派随分と怖いもの知らずらしい。まあ、そんな妹がいてもいいかなとは思うが、当事者に巻き込まれると災難感は拭えないものだな。
「じゃあお兄ちゃん、先に部屋で待ってますので、洗い物が終わったら来てくださいね?」
「何時だと思ってんだよ、まだ良い子の寝る時間でさえないぞ」
「『寝る時間』ではないですが『お兄ちゃんと寝る時間』ではあるんですよ」
「屁理屈の好きなヤツだな……床に寝やすいように布団の一枚でも敷いておいてくれよ」
「同じベッドで……と言いたいところですが、お兄ちゃんがそこまで譲歩したのに免じて用意しておきますよ、では」
そう言ってさっさと部屋に帰っていく阿地を見送りながら、そうそう都合く義理の妹になるなんて事態は起きないんだななんて子とを柄にもなく思った。




