118_妹とメンタルにくるゲーム
今日は平穏な金曜日の深夜、窓の外は静まりかえっていて、世界から生き物が死に絶えたように思えてしまう。静かなので読書でもしようかと適当に電子書籍を開いて呼んでいた。
「お兄ちゃん! 遊びましょう!」
とまあこうして平穏は破られるんだな、まあ平和なんてこの程度のもんだ、軽く消え去ってしまうものだから仕方ないだろう。俺は……
「眠いからもう寝る」
せめてもの抵抗として妹にそう返した。余計なことを知る必要なんてないんだよ。妹の誘いを断った、ただそれだけのことだ。
ドンドンドン
部屋のドアがノックされ始めた。ノックと呼ぶには少々勢いが付きすぎているような気もするが気のせいだと思いたい。
「お兄ちゃん、居るのは分かってるんですよ。開けてくださーい」
仕方なく立ち上がってドアを開けた、途端に阿地のヤツが飛びついてくる。
「フフフ……夜にお兄ちゃんと遊ぶのは背徳的な気がしていいですねえ……」
「自分から来ておいて背徳的もクソもないだろ。想像力が豊かなのは結構なことだと思うよ」
「で、何の用だったんだ? 遊びに来たって、こんな時間じゃ何処にも行けないだろうに」
妹は大仰に首を振ってから言う。
「これです! お金がかからなくていいでしょう?」
阿地がポケットから取り出したのはシンプルにトランプだった。確かに遊べるが、それでいいのか?
「随分と地味だな……もっととんでもないものが出てくるかと思った」
正直にそう言うと、我が意を得たりと阿地が語る。
「ゲームは神経衰弱、賭けるものはシンプルに命……もといなんでもいうことを聞いてくれる権利です」
安易に命を賭けようとしたな、ホビーアニメと勘違いしてんじゃないぞ。カードゲームで死人が出る方がおかしいんだよ。
そこまで過激ではないが、それでも随分とリスキーなことを思いつくヤツだ。
「お兄ちゃんに拒否権はありません、さあ、始めるとしましょう」
そうしてカードがばらまかれた。一枚ずつ必死にめくっていくのか、随分と面倒くさいな……
そうして始まったゲームだが、阿地は圧倒的に強い、一度見たものを記憶してしまうようだ。俺の頭は直近三回くらいの記憶しか無いので圧倒的に不利だ。
「ほらほら、お兄ちゃんもザコですねえ……これは私が勝ったでしょうね」
勝ちを確信している阿地を見ながら、何とかここから逆転出来ないかと考えつつどれをめくるか考えていた。一枚のカードに手を伸ばしたときだ、その時は阿地の顔を見ていたのだが、ニッコニコの笑顔になっている。
俺は手を動かしてどのカードを選ぶか探ると、一枚のカードの上に手が行ったとき、阿地の顔が見るからに渋くなった。
まさかそんな初歩的な……と思いつつそのカードめくると当たりだった。その調子で同じことを繰り返すと見事に正解を連発出来た。
「なぜ……お兄ちゃんは記憶力が悪いはず……」
何気に失礼なことを言う妹だが、俺は観察力の方はあるんでな。
その結果、何とか阿地に辛勝することが出来た。なんでもいうことを聞かせられるという圧倒的なアドバンテージを俺は得たわけだが……
「じゃあ阿地、今日はもう寝ろ、見るからにお前眠そうだぞ」
ポカンとした阿地はそれから文句を言いたそうに俺を見る。
「お兄ちゃん、私は……なんでもいうことを聞くんですよ?」
そう言うので俺はシンプルに答える。
「体調を崩してまで妹に言うことを聞かせたいとは思わん。諦めろ」
その言葉に『お兄ちゃんが私の体調を考えてくれているなら仕方ないですね……』と言って部屋に帰っていった。好き放題する奴だが、負けは清々しく受け入れたのだけは評価しようと思ったのだった。




