116_妹と特別な写真
今日は優雅な休日だ。こんな良い日に面倒事が舞い込んでくるはずがない。そう、だからたとえ目の前で妹が土下座していたとしてそれが何の関係があるだろうか? いや無い。
と言うわけで平和な休日を過ごそうと一杯のコーヒーを淹れに……
「お兄ちゃん! お願いしたじゃないですか! 頼みますよ!」
ああもう、しつこいなあ……
「何で俺がお前と手を繋いでいる写真を撮らなきゃならないんだよ。しかも顔付きでとか嫌に決まってんだろ」
まったく、阿地にはデジタルタトゥーの恐ろしさを知らないらしい。顔付きの写真をクラスメイトに放流したらどうなるかなんて分かったもんじゃないだろう。
阿地はこの手の話への危機感が薄すぎる。どこぞの木馬の弾幕より薄い。
「だってえ……友達にお兄ちゃんならそのくらい軽くしてくれるって言っちゃいましたもん」
安請け合いにも限度があるだろう、ロクなことをしないんだなと呆れるしかない。そのクッソしょーもないマウントのために、何故俺がその嘘に付き合わないとならないんだ。
「お兄ちゃんならそのくらいのサービスしてくれるって思ったんですよ! 私の発言の何処がおかしいんですか? お兄ちゃんが妹思いであると友達に伝えることの何が悪いんですか!」
開き直りやがった、発想が自由すぎる。ゲームの任意コード実行でもここまでの自由度はないぞ。発想が余りにもアレ過ぎるところを除けば見た目はまあ……可愛い、認めたくはないが可愛いんだよなあ……
「お兄ちゃんへの信頼感故ですから、ね? お兄ちゃんの名誉を守りたいんですよ」
どう言い繕っても本質は余りにもくだらないのだが、それを無視するのもどうかと思う。我ながらいい加減だが、阿地ももう少し考えてから発言してくれてもいいのにな。
「はぁ……じゃあ顔は適当にスタンプなりモザイクなりで隠しておけ、それなら写真を撮ってもいい」
「よっしゃああああああ! お兄ちゃんとイチャついているところの証拠だああ! これであの疑いの視線を否定出来るう!」
えぇ……発想が問題あるだろ? 正気かよコイツ。
「じゃあお兄ちゃん、ちょっとシャワーを浴びてきますね!」
「なんで写真を撮るためにシャワーを浴びる必要があるんだよ?」
ぜってーろくでもないこと考えてるよなあ……
「ほら、肌から湯気が出ている状態でお兄ちゃんと写真を撮るといろいろといい感じでしょう?」
「想像を見た奴に委ねるんじゃない、ほら、さっさと撮るぞ」
キリがないので俺はさっさと阿地の隣に立って手を繋いだ。心なしか阿地の顔が赤らんでいる。
「恥ずかしくなるなら始めから言わなきゃいいのに」
そう言ってみると、阿地は慌ててスマホを取り出して何回も撮影ボタンを押していた。何枚撮る気だよ、そんな調子だと写真がストレージを圧迫するんじゃないか?
まあ本人が満足しているなら細かいことは言うまい。おかげでそれからは本を読みながらコーヒーを飲むという知的な生活が出来た。なお、阿地は暇なのか延々とスマホを弄っていた。
放っておいたのだが、恐ろしいのはその晩、『全部の写真をグループに送りました!』と嬉しそうに報告してきたことだろうか? 阿地の友人達がスマホを無制限プランで契約しているのを祈るばかりだった。




