113_妹と名前の決まってないアレ
「お兄ちゃん、じゃじゃーん!」
妹がドヤ顔でポケットから取り出したのは、ごく普通の……普通の結束バンドだった。それもかなり太いヤツ。
「なあ、それをどうする気だ?」
嫌な予感しかしないが一応用途を訊ねてみた。
「こうするんですよ!」
長いと思っていたら、俺に抱きついてきたかと思うと、素早く手首にバンドを巻き付け、自分の手首とひとまとめにしてしまった。図ったな妹め……
「ちょっと前にチェーンで繋がれたまま走るゲームのプレイ動画を見たので思いつきました」
ほんっとろくでもないことばかり学習するなコイツ。ゲームの真似をするんじゃないっての。
「さて、ニッパーを取りに行こうか」
さっさとこの縛りを切断しようと部屋にニッパーを取りに行こうとしたのだが、阿地が抵抗してキッチンから動こうとしない、あのゲームは協力して移動するものだったはずだが、コイツにその気は無いらしい。
「お前な……このバンド随分と柔らかいがわざわざ探してきたのかよ……そこまでしてこれをやりたかったのか……」
「だってこうできるじゃないですか」
そう言って阿地は俺に抱きついてきた。コイツ、協力も何もなくこれがやりたいだけかよ……
妹の欲望に忠実さにはため息が出る。隠そうともせずこんな強硬な手段に出てまで手を繋ぎたいかね? というか手を繋ぐというよりは縛っているという方が正確か、『一蓮托生』という言葉が頭に浮かぶ。
「なあ、こんなことしなくても手くらい繋いでやるぞ?」
流石にバンドで縛られたまま手を繋ぐくらいなら、普通に手を繋いだ方がまだマシだ。柔らかいバンドで痛くはないと言えど、縛られるのは好きじゃない、いや、好きなやつの方が珍しいだろ。
「おっと、引っ張らないでくださいよ」
そう言って阿地が俺の胸に飛び込んできた。柔らかな感触が体に伝わる。
「こういうことは、こうでもしないと出来ませんから」
「そういうことはやるもんじゃないとは思わなかったのか?」
一応聞いてみたが。
「お兄ちゃんが妹の希望に応えないのが悪いんです」
そう屈託のない笑みで言われた。邪悪さの欠片もない、悪いことだとは微塵も思っていない、そんな誤用ではない方の確信犯なのだろう。邪悪さの自覚がないものが最も質が悪いという言葉を思い出す。
その日は一日阿地に縛られっぱなしだった。お昼は口にスプーンを運ばれ、トイレは必死に我慢した。その結果、ようやく夕方のお風呂前に解放された。結束バンドを切るのに包丁を持ち出されたときはヤンデレかな? と思ったが、結束バンドの切り方をよく知らなかったらしく、俺がニッパーで切ると行ったのでなんとか包丁でバンドの切断という危なっかしいことが行われはしなかった。
ただ、今回のことが起きないように、阿地が手を繋げとせがんできたら素直に繋ぐ日々がしばし続いたのは言うまでもないだろうか?




