111_妹と新しいキーボード
うららかな日差しの中、のんびりにコーヒーを飲んでいると阿地の部屋からバンバンとうるさい音が響いてきた。どうせまた何かやっているのだろうがやかましいなと思う。
それから音がおさまったら阿地が出てきてこちらにやって来た。不機嫌そうだが面倒なことを言われなければいいのだが……
「お兄ちゃん! キーボードください!」
俺は呆れつつ言う。
「確かにキーボードクラッシャーはミームとしては知ってるけどさあ! あんなの本気でやる人間がいるなんて思わなかったよ……」
どうせ今の音はキーボードを叩きつけていた音だろう。よくまあそんなことが出来るものだと思う。
「だって! レスバで負けるとムカつくじゃないですか! 私の正当防衛に刃向かってくる方が悪いんですよ!」
暴論を言う妹、しかも原因がレスバか……どこぞのレスバ王のメンタルを学んでほしい。感心するようなメンタルではないが、ものに当たり散らすよりは買った気になっておとなしく終わらせる方がよほどメンタルに良いだろう。
「分かったよ、前に買ったキーボードがあるから持ってくる。頼むから今度は壊すなよ?」
「分かりました! 次のレスバでは私が負けないように頑張ります!」
「そういうことを言ってるんじゃないんだよなあ……」
俺は部屋に戻ってキーボードの山を見る。PC使ってると結構たまってくるんだよなあ……使いやすいのはこれで、打ち心地がいいのはこれ……という風にまともに使い道があるものをどけていく。どうせまたやらかすのは目に見えているので安いヤツでいい。
打ち込む内容がレスバなら気持ちよくタイピング出来る必要はないだろう。そう思って一番安くて見た目だけがまともなヤツを持って阿地のところに戻った。
「ほら、キーボード持ってきたぞ。今度は大事に使えよ?」
「はい! 今度は負けないようにします!」
そういう返事が返ってくるのは分かっていたので安いヤツにしたんだよ。そうは言わずに渡しておいた。
「そういやなんでスマホでレスバしないんだ? あっちなら叩きつけて壊したりしないだろ?」
ふと疑問に思ったのでそう聞いてみた。いや、阿地ならスマホを叩きつけて壊すかもしれないが、それでもキーボードよりは壊すハードルが高いだろう。
「キーボードとPCの方が自演しやすいですし、入力も早いのでレスバ向きなんですよ」
いやあ、PCもレスバがメイン用途として使われるとは思ってなかっただろうな……メーカーも対戦ゲーム向けのゲーミングPCを売るのなら、レスバ向けのPCを出してもいいんじゃないだろうか? 使い道としては対戦に変わりないのだからそう変わらないような気がする。
妹も立派に育ったなあと育成方針が何処で間違ったのだろうと思いながらウキウキで部屋にキーボードを持ち帰る妹を見送ってから冷めたコーヒーを飲み干した。




