108_妹と監視社会
「眠い……」
俺がそう口に出すとあくびをしながら阿地が言う。
「お兄ちゃんはいつまでも起きてるからですよ。観察している私の身にもなってくださいよ……」
「ナチュラルに監視宣言をしないでくれるか? 俺が寝たのは早朝だぞ、お前ずっと監視してたのかよ……」
妹の行動にドン引きしつつ、どこかで否定して欲しいと思いながらそう訊ねた。
「お兄ちゃんへの興味は尽きませんからね。私の探究心の表れだと言って欲しいですね」
えー……マジかよ……朝までどうやってか知らないけど人の部屋をほぼ徹夜で火難死してたのかよ、怖っ……
「何をそんなに監視する必要があるんだよ? 俺はつまらないただの人間だろうが、一々見てて何が楽しいんだよ」
「お兄ちゃんの癖や好みを知りたいと思うのは妹として当然でしょう。もっとも、壁に聴診器では限界がありますね。今ほどX線でスキャンする機械が欲しいと思ったことはありませんよ」
この際聴診器は放っておくとしてだ……
「X線でスキャンって、家の中に線源をおくのはやめろ。お前ならマジでやりそうで怖いんだよ」
とんでもないことを言い出すやつだ。大体兄の部屋にX線を浴びせるような考え方はやめていただきたい。どう考えても危ないことだろうが……きちんと義務教育を受けている最中の発言にはとても思えない。
「お兄ちゃんが素直に部屋にカメラを置くのを許可してくれればいいですよ。それなら面倒なことはしなくて済みますから」
「どこまで監視がしたいんだよ……俺なんて監視するほど面白い人間じゃないだろうが……」
「お兄ちゃんを監視している自分が私は好きなんです! お兄ちゃんを愛故に監視していると思うと興奮しますねえ……ふへへ」
気持ち悪い……とまでは思わないが……嫌やっぱ気持ち悪いわ。まあそれはさておき、そんなことをしてまで俺を監視している自分に酔えるって普通の感性じゃないと思うんだよなあ……
「もう少し健全な趣味を盛った方が良いんじゃないか?」
「なるほど、一理ありますね。ではお兄ちゃん、今晩生き物としての自然の営みをしませんか?」
「お前マジで怒られるぞ! ギリギリの言葉で誤魔化せると思ってんじゃねえよ! 表現のチキンレースをするんじゃない」
怖いもの知らずにもほどがあるだろ……もう少し不規則発言をする前にリミッターのようなものが普通はかかると思うのだが、ウチの妹にはそういったものが存在していないようだ。
そんな無謀な生き方に付き合いきれないので美味く流すスキルばかりが付いてくる。好き放題するのもどうかと思うが、思想はともかく講堂に移したり発言をしたりしない程度の理性をコイツが身につけてくれればいいのにな。
結局、その日の夜は部屋の鍵をかけて寝ることにしたのだが、ただ、寝ているときにガチャガチャとドアが揺れるのはホラーのようだからやめて欲しいと割と本気で思う日だった。




